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2017-05-12

静大人文と県大国関同一人物伝説?|大学つれづれ案内

静岡大学の人文社会科学部と静岡県立大学の国際関係学部。それぞれの学部では、一体どんなことを学べるのか。静大生と県大生と先生が案内人になって、互いの大学のカリキュラムや研究室をレポートしました。

▶︎静岡大学の案内人

大原 志麻先生(写真:右) 人文社会科学部 准教授。専門は史学、比較文化。

山梨 夏水さん(写真:右から2人目) 言語文化学科 英米言語文化コース4年。静岡県出身。

▶︎静岡県立大学の案内人

町 加奈恵さん(写真:左から2人目) 国際言語文化学科 アジア文化コース4年。宮城県出身。

富沢 寿勇先生(写真:左) 国際関係学部 教授。専門は文化人類学、東南アジア地域研究。

静岡大学 別名「天空の城」と呼ばれる人文棟から望む駿河湾。
また、学科会が開かれる部屋には犬養毅の標語が掛けられている

人文はオーソドックスな文系。国関は焦点を絞ったアプローチ

静大 山梨さん:静大の人文には言語文化、社会、法、経済の4学科があります。私が所属する言語文化学科は、日本・アジア言語文化、欧米言語文化、比較言語文化の3コースに細分化されます。

静大 大原先生:少し分かりにくいのが比較言語文化でしょうか。言語学、対照言語論、記述言語学など言語を専門的に学んだり、2つ以上のエリアの文学・文化を比較するコースです。38単位を取得すれば、他コースからも自由に単位を取得できます。

山梨さん:ドイツ語を専門に学びたいけど、言語学も学びたいから比較言語文化コースにいるという人もいますね。

大原先生:静大の一つの特徴は、本来は一つの学部として設置されるようなものが、人文社会科学部という学部に学科としてまとめられている所です。学科をこえて受講でき、広範な流動性があります。加えて副専攻もある。

県大 富沢先生:県大には副専攻の制度はありませんが、学問の方法論を窓口とする国際関係学科と地域研究に基盤をおく国際言語文化学科という異なる学科間やコース間での専門科目群の自由な組み合せができるようになっています。

大原先生:静大人文の学生が履修できる副専攻は国際日本学、地域づくり、アジア・ブリッジ・プログラム(ABP)の3つです。国際日本学は、英語で日本の経済や社会、文化をいかに発信するかを学びます。ABPは東南アジアからの留学生と静大生が共に学び、相互理解を深めるものです。

県大 町さん:人文社会科学部は元々は人文学部でしたが、名称変更の理由にはそうした学びの多様性を示しているんですか?

大原先生:人文学部というと文学部の印象を持つと思いますが、静大は社会科学系の学生の割合が高いため、そうした実態と整合させようと現在の名称になりました。

静岡大学 附属図書館地下。旧制静岡高校の蔵書が静岡キャンパスと浜松キャンパスに分かれ収められている。図書館全体の蔵書数は130万冊!(県大は38万冊)。なお、大学院生は自由に入れるが、学部生は事前に申請が必要

山梨さんお気に入りの英米共同研究室。
各コースごとに共同研究室があり、所属している学生であれば誰でも自由に使える

富沢先生:県大国際関係学部は旧静岡女子大学の国文学と英文学を中心とした文学部系を抜本的に再編拡大したもので、時代の要請に応えて、地球上のさまざまな社会、文化、地域をより現在的に理解する学部にし、対象地域も日本、英米に加えて、アジア、ヨーロッパへと広げ、アプローチの方法も政治や経済、社会学や文化人類学といった主に社会科学系の分野を学際的に組み込んで現在の国際関係学部に発展しました。国関にも静大人文と同様に、歴史や思想史を専門とする教員はいますが、 それもグローバルな、あるいは、ローカルな課題の現在的研究に必須の知識として位置づけています。

町さん:ご指摘の通り、県大国関は国際関係学科と国際言語文化学科があり、2年生からコースに分かれます。私が所属する言文は英米、日本、アジア、ヨーロッパの4コース、国関は国際政治経済と国際行動学の2コースがあります。

富沢先生:国関の学部共通科目には国際関係論、国際行動論、日本文化論があります。なぜ日本文化論かというと、日本の文化や社会のことを知らなかったり、説明できなかったりすると、国際的な脈絡でたいへん困りますから。また静岡県が置かれている立ち位置、日本が置かれている立ち位置を知るためにはアジアを十分理解することもとても重要になります。

県大 富沢先生の研究室。静大よりも広く、本の多さに静大組が興奮

県大のモニュメント下から上を見上げると、360°、世界がそこに収まるという奥深い設計が!

グローバル化も豊かな人間性も実は根本は同じ?

町さん:県大にアジアに詳しい先生方も多かったのは、大学進学の際に決め手になりました。

山梨さん:日本を知ることに関しては、私も留学した時に「日本の学生は自国を知らない」と言われ悔しい思いをしました。話は逸れますが、今年もチェコに留学します。実は社会学科の授業がきっかけなんですよ。中世ヨーロッパの宗教改革で、火刑に処されたヤン・フスの主張とルターのそれはほぼ同じでしたが、両者の違いを、時代背景や国家間の力の差、印刷技術の発展などを元に学びました。歴史は様々な因果関係の元に生まれることがよく分かりました。

町さん:いいですね。私も専攻は韓国ですが、中国の授業も受けています。印象的なのは中国社会論という授業です。日本でも時折、問題になる中国人旅行客の行動がどういう文化背景の下になされるのかを学びます。あと県大には静岡県立美術館や静岡県舞台芸術センター(SPAC)などのさまざまな文化施設と地域連携したムセイオン静岡のプロジェクトや静岡に関する授業もありますね。

大原先生:静大でも公開講座や非常勤に来ていただいたりとSPACとはつながりが強く、スペインの黄金世紀文学を日本の演劇にどう適応させたかなど、学生の卒論を手伝っていただいたりもしました。

富沢先生:そういう意味では、現代の地域社会や文化の豊かさを追求する上でも、文学などの古典を勉強することは大事ですね。

静岡県立大学SALL。DVDやCD、英字新聞があり、自由に、楽しく言語を学べるスペース。町さんおすすめの映画はトム・ハンクス主演の『Extremely Loud & Incredibly Close』

山梨さん:静大人文が謳っている「豊かな人間性」にもつながります。情報技術が発達して、ある程度の知識はスマホで調べれば得られます。でも、そういう単純な知識がただ頭の中にあることを「豊か」とは言わないと思います。私が豊かだなと思うのは、知識の取り入れ方とその出し方が豊富にあること。授業を受ける、本を読む、多くの人と話す、集団討論する、既に持っている知識と関連付けて考える。それらが豊かな人間性を構成するのだと思います。
高校世界史で習うように、エリザベス1世によるイギリス国教会への改宗が進む時代に、英文学を代表するシェイクスピアは重用されていました。しかし彼の代表作「ハムレット」では、彼がカトリック信者であるような描写があり、他の文献ではそれを裏付けるように、彼の実家からカトリックの儀式に使う道具が発見されています。一つの視点だけでは、物事を捉えることができません。様々な知識と考え方が必要な例だと思います。

大原先生:知らないことも尊重できるようになりますよね。静大は協定校も多く、留学生も多いですが、外国から学生を受け入れるという点でも日常的に国際感覚や多様な物事の見方も養えます。

町さん:「グローバル」も同じです。国という枠組みはありつつも互いに作用しあって、一国だけでは存在できないような関係にあることをグローバルな状態と言うと思います。日本も中国や韓国と政治的な対立はありますけど、だからといってその国との関係を完全に絶つことはできません。

富沢先生:今はグローバル市場経済に基づいた画一的な考え方や枠組みが地球上を覆い、ある意味では均一化に向かっている時代です。でも、文化や社会のあり方は完全に均一にはならない。むしろグローバル化が進むとね、お互いに非寛容になってきているでしょう? テロリズムやヘイト・スピーチなどもあるけれど、基本的に皆、それぞれに異なる宗教や文化、考え方のバックグラウンドを持っています。その相互接触において重要なのが、相手が何を求めて、何を最も大事にしているか。それを相互に理解し合って共通点を探らなければ、本当の意味でのグローバル化にまつわる人間関係や社会関係の問題は解決できません。

単なる知識ではなく、それをいかに応用して実践知につなげていくか。そういう意味では県大国関のキーワードである「グローバル化」も静大人文が謳う「豊かな人間性」も求めるものの根本は同じなのかもしれません。五感を駆使して世の中のことを理解する能力を大学にいる間に身につけてほしいです[了]

静岡大学(静岡キャンパス)

〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836
https://www.shizuoka.ac.jp/

静岡県立大学

〒422-8002 静岡県静岡市 駿河区谷田52−1
http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/

→この記事は、高校生向け大学情報誌『ハイスクール静岡時代』より抜粋して掲載しています。

ハイスクール静岡時代

静岡県の高校生のためのアカデミック情報誌。2016年創刊。普段、大学で配布している『静岡時代』に文理選択に役立つ情報や、より具体的な県内大学での学びや大学生たちの様子を掲載。静岡県全高校の1年生に無料配布(静岡県教育委員会後援、公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム企画協力)。ハイスクール静岡時代についての質問・感想等は、お問い合わせフォームからご連絡ください。


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