大事なことは過去から学べ。静岡県の大学史〜静岡英和学院大学 小和田美智子先生
現在の静岡県の大学の前身は、明治に徳川氏によってつくられた「静岡学問所」。旧幕府の教育機関の学者も書物も静岡に移され、国内最高水準の教育が展開されていた場所です。今回は、静岡県の大学史をめぐりながら、100年前の学生と今の大学生のつながりはあるのか。歴史学者 小和田美智子先生(静岡英和学院大学)に聞きました。
小和田 美智子先生
静岡英和学院大学 非常勤講師。専門は日本史。静岡の歴史とその変化、地域とのつながりや現代の男女関係を扱う。暗記科目と思われがちな歴史だが「考えること」を通して学べる授業を展開されている。
考えてこそ「学生」。かつての学生運動も歴史学も同じ
――静岡県に大学が生まれた歴史的な経緯を教えてください。
まず静岡県には、現在の大学の前身となった「静岡学問所」という学校があったんですよ。明治のはじめ、江戸幕府崩壊後に駿府に移封された徳川氏を藩主とする駿府藩が、藩の建て直しや人材育成を意図して開設しました。徳川氏の駿府移封とともに、旧幕府の教育機関に所属していた学者も駿府に移住し、旧幕府の蔵書も移されました。つまり、全国から集めた優秀な学者や文献が、江戸から静岡にやってきたんです。
徳川の時代に脈々と受け継いできた知識が静岡に集結し、そこでは、望めばどんな人でも学ぶことができました。国内最高水準の教育が静岡県で展開されたんです。 すごいでしょう! でも、明治5年の学制頒布によって、教授・学生は後にできた東京大学に引き抜かれてしまったから、結局静岡学問所は廃退してしまいました。ちなみに、学問所にあった江戸幕府の旧蔵書は現在「葵文庫」と呼ばれて静岡県立中央図書館に保管されています。
――大学の基礎となる学問所が静岡に存在したなんて驚きです。約150年も前の学生と私たちはどう違うのでしょうか?
当時は分からないけれど、少なくとも大学生や高校生などの青年期を表す「モラトリアム」という言葉は、私の学生時代にはなかったんです。とはいえ、私が大学生の頃は学生運動が盛んな時代で、みんなでよく意見を出し合って真剣な話し合いをしていました。サークル活動でも人生について考える機会は頻繁にありましたね。だから、「モラトリアム」という言葉はなかっただけで、当時の学生も同じだと思います。私も本当にたくさん悩んで挫けて、それでも挑戦しました。当時、女性が大学に通うことは今のように当たり前ではなかったし、戦後だったから、金銭的な問題も大きかった。なんとか両親を説得して行かせてもらっていましたし、必死でしたよ。
ただ、静岡の学生に限らず学生全体に言えることですが、「考える」ことをしなくなってきていると思います。なぜなら大学の制度が変わったからです。昔は、大学受験は試験が二回行われていて、一期校がだめだったら二期校、というようにチャンスが二回ありました。それが共通一次試験になり、今では全国統一のセンター試験一本に絞られた結果、どれだけ考えられるかよりも、どれだけ良い点が取れるかで比べられてしまいます。いろんな知識が暗記になって、考えさせる問題が少なくなりました。でも、はっきりと伝えておきたいのは、それが大学時代においても重要な「考える力」を低下させてしまうことです。歴史だって暗記ではないですよ。そもそもなぜ歴史を勉強すると思いますか?
――過去を知ってこれからの未来に活かすため、ですかね。
そう。今、自分たちが生きている世の中を知るために、歴史の中から事象と、そこに関わった人の「考え方」を学ぶ必要があるんです。そもそも大学はこういうことを学ぶ場でなくてはならないと思うけど、今はそこも変わってきていると感じます。「何年に何があって、誰がどんな政治をした」ではなく「何故そうしたか、なぜそう考えたのか、誰が関わってどんな過程を経て、その結果になったのか」を知ることが重要です。
少子化の時代だからこそ、今の学生は「親との対立」が鍵
大学は能動的に自由に、自分の望むことを学ぶ場です。そういう意味で、サークル活動などはみんなで意見を出したり、考えたりする良い機会だけど、今はそうやって友達同士で意見を出し合うことって少ないでしょう? 少子化もあって、一人の子供に対する親や周りの大人の数が増えましたよね。 昔は兄弟も多いから、自分から主張しないとほとんど何も実現しなかったし、なんでも一人で考えていたものです。
私自身、5人兄弟の末っ子だったので、上の人たちの様子をみて、先まわりして危険が及ばないようにし、生きる力が知らず知らず身についていたんです。逆に、今は大切にされすぎて、自分から何かを発信しようとする子がいなくなっている気がします。
学生時代に悩んで、親との対立を経験する子は将来困らないと思いますよ。なぜなら、衝突の中で次を、次をと考えて主張するからです。その親に認められたり、理解されようと必死になる経験は、社会に適応するために必要な力になるでしょう。
――適応能力を高める方法はありますか?
一つは「恋愛」です。恋愛は自分を見つめる意味でも良い経験になります。相手の理想に応えるために自分を抑えて苦しくなったりしてね。自分が大きく変わるタイミングになりやすいと思うし、私はそうでした。少し話は逸れるけど、学生全体に目を向けると、男性と女性が持つ気質はかなり違うんです。多面的に物事を捉える男性と、これと決めたら一点集中型の女性。両方の側面が重要だから、やっぱり恋愛も大事よね。
本当の自分を見つけるために、勉強して恋愛して、社会にふれて困難を乗り越えていく。大学は自分自身の人間性を深める場です。人間的に成長できる貴重な時間、それは今も昔も、これからも変わらないでしょう。[了]
静岡英和学院大学
〒422-8005 静岡県静岡市駿河区池田1769
http://www.shizuoka-eiwa.ac.jp/
→この記事は、高校生向け大学情報誌『ハイスクール静岡時代』より抜粋して掲載しています。
ハイスクール静岡時代
静岡県の高校生のためのアカデミック情報誌。2016年創刊。普段、大学で配布している『静岡時代』に文理選択に役立つ情報や、より具体的な県内大学での学びや大学生たちの様子を掲載。静岡県全高校の1年生に無料配布(静岡県教育委員会後援、公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム企画協力)。ハイスクール静岡時代についての質問・感想等は、お問い合わせフォームからご連絡ください。