toggle
2020-03-15

「世の中にないものを作る面白さ」〜静岡理工科大学理工学部物質生命科学科講師・小土橋陽平先生

一日中部屋にこもっていて、大人になっても勉強している、そんなイメージのある研究者には、高校の学問はどう映っているのだろうか。研究者だからこそ語れる、学問の奥深い世界。


小土橋先生 私は機能性高分子研究室で、主に新しいプラスチック(高分子)材料を開発しています。それを使ってバイオマテリアルとして病気の診断や治療、予防に役立てることが研究のモチベーションです。機能性高分子とは温度やpH、光、分子濃度など外部の条件によって性質が変化する高分子の総称で、極小の高分子カプセルによる癌治療や人工血管などへの応用が期待されています。

 私が機能性高分子と研究に興味を持ったのは、高校生の時です。当時は、漠然と医学に関することをやりたいなと考えていたのですが、ある時担任から、「新聞の切り抜きをしてみなさい」と言われ、その日の新聞に目をさっと通し、目を引いたいくつかの記事を切り抜いてノートにペタペタ張っていくことを始めました。二、三か月続けると、切り抜いた記事に傾向が出てきます。私の場合、病気の治療や診断に役立つ新しい材料開発に関する記事を多く切り抜いているのが分かり、医工学に興味があるのかなと考えたことがスタートです。そこで大学では工学系に進み、機能性高分子やプラスチックを使って病気の治療をしている研究室を選びました。プラスチックは世の中に溢れていますが、日々進化しており「こんな使い方もあるんだ! 」と毎日のように驚かされています。

——新聞の切り抜きからご自身の興味を探り、研究をスタートされたのですね。では、研究することの面白さって何ですか

小土橋先生 世の中にないものやシステムを作るというところが一番面白いと思います。ただ、自分が思いつく新しいアイディアは大抵他の人も考えています。それが本当に新しいものかどうか論文や学会を通し確信を持つまで不安ですが、そこも面白いところです。

 あとは、ネットワークづくりですね。世界中の研究仲間と議論するのはとても刺激的です。特に今はSNSやweb会議を使うことで、気軽に地球の裏側の仲間たちともタイムラグなく喋ることができます。そういった環境を活かしながら、ネットワークを作るので、今のこの時代をこの場所で生きているのだということを感じられます。何より話していてとても楽しいです。研究者同士で協力しますし、時にはライバルになって争わなければいけないこともありますが、それらを含めて特別な関係だと思います。それぞれが、様々なバックグラウンドを持っていて、いろいろな価値観の中で生きている。そういったものに触れられることも研究の魅力のひとつだと思います。

——研究者というとずっと研究をしているイメージがありましたが、人とのコミュニケーションをとても大切になさっているのですね。ところで研究をされる中で、学ぶから役に立つのか、役に立つために学ぶのかが気になるのですが、先生はどのようにお考えですか

小土橋先生 それは、鶏が先か卵が先かと同じで、学ぶことと役に立つことのどちらが先かは人それぞれです。どちらが先でもゴールは同じなのではないかなと思います。また、この二つはグルグルと循環するものですので、学ぶことがスタートになっても、役に立つことがスタートになっても良いです。循環するうちに大きな渦になって、自分の人生を豊かにしたり、社会貢献につながったりできれば万々歳かなと。大切なことは、役に立つことと学ぶことが歯車のように連動していて、ゴールがしっかりと定まっていることだと思います。機能性高分子のゴールは、人の役に立つため、社会の役に立つためですね。これに少しでも早く近づくために、何が必要かを逆算していきます。特に材料やシステムを作っていく場合、もの作りで終わりではなく、医療機器としての許可申請や臨床試験を経て製品になります。手触りや使用感など、現場の声もとても大切です。医学部との共同研究や患者さんの声を反映し、ゴールに向かって研究を進めています。

 またゴールに向かう羅針盤として、本や学術論文、経済などいろいろな分野から学んだことを応用します。時代を先読みし、それに合ったものを選択・実行することが大事です。一つの声に耳を傾けると知識が偏りますので、いろいろな声を知ることで視野が広がり順調な旅を続けることができると思います。

——ゴールに近づくために、日々の様々な小さな「学び」を活用していくのですね。その「学び」に関してですが、高校と大学での学びの違いはどこにあるでしょうか

小土橋先生 学びの本質は同じだと思います。「なぜ?」という疑問を持つことです。それを通して、季節の微妙な変化を感じたり、会話や議論をしたりすることは人生の豊かさにつながると思います。

 高校までの学問は、人生を楽しむための重要な基礎科目だと思っています。その時代にあった学問分野が選ばれていて、生きるために必要な知識はもちろん、芸術観、道徳観など人類の叡智の結晶に短期間で触れることができます。例えば高校理科の教科書を持って二〇〇〇年前にタイムスリップしたら、当時のどの科学者よりも頼りにされるかもしれません(笑)。

 これらの基礎科目を財産として爆発させて、自分が活躍する分野を自由に選択できることが大学の学びの面白ところかなと思います。選ぶって面白いけれど、迷いますよね。「好きに何を描いてもよいよ」って富士山くらいの画用紙を渡されたら戸惑っちゃいます。それでも数多にある大小の選択を重ねて、五合目くらいで休憩しながら自分の活躍するフィールドを探していきます。自分が得意だったことを思い出し「どんな分野に向いているか」を自己評価することは大切です。例えばクラスの中で国語は四〇人中三位だったら三/四〇、音楽は四〇人中二三位だから二三/四〇、これらの分数を掛けていって「一/日本の人口」よりも小さくなれば、日本一になる可能性がある分野かもしれないですよね。高校までの得意科目を見直していくと、思わぬ才能を発見できるかもしれません。大学の学問は応用で、基礎がしっかりしているとより楽しめます。これからも「学び」をとことん楽しんで下さい。


小土橋陽平先生

静岡理工科大学理工学部物質生命科学科講師。機能性高分子の開発、医療現場での応用など基礎的な研究から実用化まで幅広く扱う。病気の診断や治療に使う極小カプセルや、薬剤耐性菌に抗菌性を示す高分子の開発はメディアでも紹介された。


文・ゆはず藍花(静岡大学農学部応用生命科学科1年)/ 調整・河村清加(静岡大学地域創造学環アート&マネジメントコース2年)

関連記事