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2020-04-14

「大学は学びを楽しむところなので」〜静岡英和学院大学学長・柴田敏先生

 大学で学ぶって高校までと何が違うの? 静岡英和学院大学学長の柴田敏先生に聞きました。いまこの時代だからこそ、ミッションスクール(キリスト教・プロテスタント系)で学べることってなんですか? お話を聞きながら見えてきたのは、グローバルの時代に自分が生まれ育ってきた価値観とは違う世界と人を、どのように愛せるか。シンプルだけど、とても大切なことでした。

「変わることのない大切な考え方から」

柴田先生「今から五十数年前に中等教育の上に立つ高等教育機関として静岡英和女学院短期大学が設立されました。それが2002年に4年制化して、現在の静岡英和学院大学になっています。
 最初は、静岡で女性のための教育ということを主な目的として設立されましたが、大学部は建学したときから共学です。静岡の地での高等教育機関として、静岡英和学院の伝統である、キリスト教精神に則った教育等をさらに進めていこうということです」

増田「僕は常葉大学の出身で家は仏教です。キリスト教に基づいたカリキュラムというのが、イマイチピンとこない部分があるんですけど、具体的にキリスト教に基づいたカリキュラムというのはどのようなことが挙げられますか」

柴田先生「週に一回水曜日に礼拝があり、1年生の必修の授業とつながっています。毎週キリスト教、聖書に基づいたお話をします。特にクリスチャン(キリスト教を信じる人)になりなさいということではありません。隣人を自分のように愛しなさいというところを学院聖句(※)の中でも大切にしていて、この先皆さんがどこで就職しても、あるいはどこで家庭を持つにしても、隣人を自分のように愛しなさいということは変わることのない大切な考え方ですよね。これから開いていく広い世界、グローバルになって行く中で、隣人とどう付き合っていくのかというのはいろんな局面で問題になっていくので、そのときにするべきことを見つけなさいということを覚えて巣立って欲しいです」

※静岡英和学院大学で大切にしている聖句。各教室に貼られている。

「私も救われているんだな」

赤堀「学長先生が役職につかれた経緯とかを簡単にお聴きしたいです」

柴田先生「私は2016年の4月から学長をしていて、今年度が4年の任期が最後の年です。キリスト教主義の学校なので、クリスチャンコードという、クリスチャンでないと就けない役職があるんですね。この学院だと院長の先生に中井先生がいらっしゃいます。院長と大学の学長と中学高校の校長3人は必ずクリスチャンでなければならないという制約があるのです。
 私は元々短大の国文学科の教員として赴任したので、28~9年くらい静岡英和学院に勤めています。当初はクリスチャンではありませんでしたが、学校での礼拝などに出たり、聖書などを読んでいるうちに深い意味があることを知ったことで、入信しました。それまでの学長先生も皆さんクリスチャンなのですが、多くはよその学校におられたかたを招いていたので、私は大変珍しいケースだったと思います」

赤堀・増田「えーそうなんですね! クリスチャンになろうという、決断に至った理由や存在などはありますか」

柴田先生「妻がクリスチャンで、一緒に教会に行くようになりました。だんだんと礼拝で聞く話がこの私の為に話をしてくださっているという風に感じるようになり、おのずと「そうか、私もそうやって救われているんだな」と思えてくるわけです。
昔は礼拝の時間にこの学校の先生の話だけではなく、外部のキリスト教の牧師さんや、キリスト教関連の施設の方などに講演をして頂いていました。そこでの話も大きなインパクトがありましたね」

「学びやすいが生まれる人との距離間」

赤堀「静岡英和学院大学だからこその良いところはなんだとお考えですか?」

柴田先生「学院聖句があるので学びの基準が明確です。先生方の中にもクリスチャンではない方もいますが、学校の体制の根本はキリスト教ということを皆さん理解しているので、その上に立った授業をしているということは少し違うところかもしれません。
 あとは、小規模な学校ですので、多くの先生と学生がお互いに知り合いになっているということですね」

赤堀「他大学のお話をきいた時とは先生方との距離感が違うなあという風に感じます」

柴田先生「ゼミの先生は覚えてくれると思うんですよね、どこの大学でも。ここだとゼミ以外でも「おお、お前元気か?」みたいな感じでいろいろな先生が学生に声をかけてくれています。
 地域との連携を進めているので、個人で活動している方をはじめ、ゼミで外に出て地域の調査とか、提言などをしていることもあります。そういう形で、地域の中で仕事をするという感覚を身につけてほしいですね。それから、留学生の友達と積極的に関わって友達になってくれるところでしょうか」

赤堀「確かに、静岡英和学院大学に入ってからできた留学生の友人とは、一緒に旅行に行ったりする仲です。私の友達も、留学生の友達の家に一緒に帰省するくらい仲良くなっています!」

柴田先生「それはとてもうれしいことです。最近は多様性の社会と言われているので、色々な人と社会を構成していくことを実践的・体験的にわかっていることはいいと思うんです」

「社会に出るための基礎を、ここで」

赤堀「今の在校生や、高校生に向けたメッセージがあれば、ご自身の体験や学長としての視点から教えてください」

柴田先生「大学は学びを楽しむところなので、大学の勉強って実は楽しいんだっていうことをわかってもらえるといいと思うんですよね。自分でどんどん外に出て行って活動するような授業もあります。そういうことも含めての勉強は楽しいはずです。この先、人生100年時代と言われているので、何か学び直す機会があると思います。そういうときの基礎固めになるような勉強をこの大学でやってほしいですね」

増田「学び直すときに自信となるような、ということですか?」

柴田先生「そうですね。プロジェクト・ベース・ラーニングから先生と一緒に勉強してほしいです。問題に出会ったらどうするかの手順は基本的には変わらないと思います。問題解決型学習から、問題を解決していくのにどんな方法を取らなきゃいけないか、物事はどんな風に考えて取り組まなきゃいけないのかを学んでほしいです」

増田「問題に直面した時に、問題に向き合う姿勢や、どうやって解決していくかは変わらない気がしています」

柴田先生「チームワークを大切にすること、自分が考えていることを言うだけでなく、他の人の意見を聴くこと、問題の分析をすることなど、基礎的な学力というか、知的基盤とでも言いましょうか、そういう考え方の土台みたいなものを形成していただけるといいなと思いますね」

エピローグ「多様性の社会だからこそ」

増田「話が最初に戻ってしまうんですけど、大学の特色の所で、留学生の比率の高さという点が挙がりました。留学生を受け入れようというようになった経緯やここまでの比率が大きくなった経緯を教えてください」

柴田先生「留学生がだんだん日本に来て留学先を探すようになってきたので、静岡英和学院大学としては特に拒む理由もないですし、多様性の社会ですから、受け入れてきました。今は、20%くらいが留学生です。ただ教員の構成も学校のカリキュラムの構成としても留学生が50%くらいになってしまうと難しくなってしまうということがありますので、だいたい20%くらいがちょうどバランスが取れていいのではないかと思います。留学生が増えていく理由としては、留学生同士のコミュニケーションの中で、先輩から「この大学は割と面倒見てくれるよ」という話があり、後輩が受けてくれるということがあるようです。現在留学生の受け入れ態勢が完璧だということはまだなく、やっぱりもう少し人を入れてやりたいのですが、規模の問題もあり難しいところはあります。留学生センターなどをつくったり、サポート体制をそれなりにやっているので、そこをちょっと評価してもらえているのではないかと思いますが、より充実させていきたいと思います」

赤堀「私は留学生センターにも所属しているので……。留学生がうちの大学を選んでくれる理由としては、留学生同士のコミュニティでの評価が高かったり、受け入れ態勢を作っているということが大きいんですかね」

柴田先生「あなたのように日本人の学生もフレンドリーに接してくれるので、そういう点を含めて、全体的にこの学校の雰囲気が評価されていると思います」

増田「留学生の方とは一緒に授業を受けたりとかあるんですか?」

柴田先生「あります。大学と短大で少しやり方は違うかもしれないんですけど、日本語の授業は留学生向けの授業があり、日本の高校を出た人とはちょっと違った、表現の授業をしています。あるいは英語の授業もしているのかな。そういうところは別々にしたり、1年生の頃のゼミは別々のゼミにしたりしています。もう3・4年になると同じゼミですよね。
 だんだんと日本語もできるようになっていくので。留学生って基本真面目なんですよね。以前いろんな学校で問題になったことはあるんですけど、今でも留学生がバイトのやりすぎで体力的に大変だということもある中、勉強も真面目に取り組んでくれるので本当にありがたいと思っています」

増田「最初のほうに静岡をより豊かにしていくために地域との連携を図っていると言ってらっしゃったんですけど、具体的なものはありますか?」

柴田先生「自治体で言うと、静岡市、沼津市、富士市と連携協定を結んでいます。あとは、短大部は焼津市と協定しています。企業さんはいろいろあります。常葉大学さんとプラットフォーム形成というものをしていてI love しずおか協議会、静岡商工会議所さんとかも連携をしていて、学生さんがあちこちで活動してくれています。
 静鉄さんの駅の所に自転車を放置しないでというポスターを張ったり、観光のゼミの人はいろいろな地域おこしとか、七間町での活動とか、沼津市で干物の美味しい利用法を考えようとか、色々やってくれていますね。短大は信用金庫さんとも連携して、信用金庫さんの催すフェアにお手伝いに行ったりしているとか」

増田「先日駿河区の区長と語ろうというものがあって、そこでは静岡英和学院大学の3年生の留学生の方2人が参加していて、とても素晴らしい意見が出ていました。留学生と日本人関係なく外に出る機会というのは恵まれているんじゃないかなと思いました」

赤堀「最初この大学にお勤めされてから、今に至るまでで、大学の捉え方は変わりましたか?」

柴田先生「そうですねえ、昔は本当に女子の大学でしたから、留学生もほとんどいなかったのが、今はだいぶ男子の割合も増えてきましたし、留学生も多くなって、とても多様になってきましたよね。学校全体としての元気は出てきているように感じます。
 あと、一貫して優しい学生が多いと思いますね。男子も含めて、人あたりのやわらかい人が多いと思いますね。だから、反面運動部が、敷地が狭いこともあるのでしょうけど、いわゆる体育会的というよりは、みんなで楽しくサークルしようといった雰囲気ですよね。もう少し弱いというところを何とかしたほうがいいのか考えたんですけど、でもそこがうちのカラーなのかもしれないなとも思いますね。
 あんまりガンガンやるというよりは、別にいい加減にやっているわけじゃないですからね。ダンス部とか吹奏楽部とかいつもとてもいいパフォーマンスをしてくれて、活気があると思います。そういう、多様性がある中で仲がいいと思いますね。全体がよくまとまった一つのコミュニティになっていると思います」

右・柴田先生/左・編集部赤堀

静岡英和学院大学・静岡英和学院大学短期大学部
静岡市に大学部と短期大学部をおく。コミュニティ福祉学科や食物学科など、専門的な知識を学ぶ学科もありながら、人間社会学科や現代コミュニケーション学科というのは特定の分野に絞り込むのではない、幅広く様々な分野の勉強ができることを特徴にしています。
静岡英和学院大学・短期大学部HP

編集を終えて

「静岡英和学院大学には優しい学生が多い」という柴田先生の言葉がとても印象的でした。
「優しさ」が、大学生の美質として数えられることってあまりないかもしれないけれど、とても大切なことだと思います。特に、これからの多様性の時代においては。
キリストの言う、かの有名な「隣人を自分のように愛しなさい」という言葉も、自分よりも他人を愛することは難しいからこそ……というメッセージだと考えられがちだけれど、それ以前に自分をちゃんと愛せている人間はどれだけいるのかと問われているようにも思います。自分をちゃんと愛せてこそ他人に優しくなれる。学問は自分の知らなかった世界や人々をつながり合えるものだからこそ、学問を携えて何をすべきかをこの大学は教えてくれているのだなと思いました。


柴田敏先生

静岡英和学院大学学長。専門は日本語古典文法・日本語教育。
元々は平安時代の文法などがメインの「日本語学」分野で授業を行っていた。短大の科目変更の流れや、留学生の増加から、現在はやさしい日本語を意識した日本語教育もやるようになり、基盤作りのようなことができればいいと考えているのだそう。


取材
赤堀彩絵子・静岡英和学院大学人間社会学部人間社会学科4年
増田純一・常葉大学外国語学部英米語学科卒(静岡時代OB・編集指導)

企画構成・執筆
藁科希英・静岡英和学院大学人間社会学部コミュニティ福祉学科3年

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