腎障害のためのやさしい新薬開発〜静岡県立大学薬学部薬科学科 沖嶋杏奈さん
静岡時代の自己資金・寄付金などにより実施された「静岡時代奨学基金」。平成29年度の給付生のひとり、静岡県立大学の沖嶋杏奈さんは、腎不全の悪化を防ぐための新薬開発に尽力している学生です。現在、日本で透析に苦しんでいる慢性透析患者の数は30万人以上いると言われています。患者さんにとってよりよい薬のあり方とは何か、試行錯誤を重ねる沖嶋さんの取り組みを取材しました。
速く効き・身体に優しく・飲みやすい
県大薬学部生の新薬研究。
日本の慢性透析患者数は32万人にのぼり、週に3回の通院生活を余儀なくされています。そもそも「透析」とは、糖尿病などをきっかけに腎臓の機能が悪化してしまったときに、腎臓の機能を人工的に代替するという一つの医療。日本の国民医療費のうち毎年1兆6千億円が使用され、日本の医療経済を圧迫していると言われています。
平成29年度静岡時代奨学基金により奨学金20万円の給付を受けた静岡県立大学薬学部4年の沖嶋杏奈さんは、腎不全の原因となる毒性物質を腸内でとらえることで透析の導入を遅らせることができないか、と研究を重ねています。
主に標的としている毒性物質は、タンパク質が分解されることによって生じるインドール。腎臓が健康な人はインドールが体内にたまることはありませんが、腎臓が悪くなりはじめると、インドールが体内にたまってしまい余計に腎臓が悪化してしまいます。腎臓が完全に動かなくなってしまった人に対しては、透析をしなければならなくなります。
研究を発展させ、一人前の研究者になりたい
従来、慢性腎不全患者などが服用している薬(クレメジン)は、腎臓内で悪いことをする物質を捕まえてそのまま体外に排出し、体内に吸収させないようにするという効果があります。ただ、一方で服用しにくい。吸着能力も高いため、悪い物質以外も体外に排出するよう働きかけてしまう可能性があります。
「腎臓が悪い患者さんはいろいろな薬を一緒に飲んでいる人が多いんですよ。他の薬の効果を妨げないようにするために、クレメジンだけ食後1~2時間後に飲むことになるので飲み忘れてしまう人が多くて効果が十分に得られないんですよね」と沖嶋さんは患者さんにとってより良い薬のあり方に頭を悩ませています。
そこで、沖嶋さんはクレメジンよりも飲みやすく、吸着する物質を選択し、一瞬で吸着する合成ナノ粒子を開発。沖嶋さんが研究に取り組み始めたのは、大学3年生の2月中旬。合成ナノ粒子は、合成させる原料・合成方法を変えることによって特性のあらわれ方が変わるため、現在はより効果の出る組み合わせを日々探求しています。
「わたしは一人前の研究者というのは、自分自身で研究を立案・実行し、結果を出す人のことだと思います。研究をより発展させることはもちろん、自らの発想のもとに研究方法を考え、試し、取り組んでいくことで、いち早く一人前の研究者になりたいです」。沖嶋さんの誠意ある研究への姿勢、このことばに何か当てられた学生も少なくないのではないでしょうか〈了〉
[取材/文:石原亜咲美(静岡大学人文学部社会科学部)]
静岡県立大学 薬学部 薬科学科4年
沖嶋杏奈さん
高校時代は静岡県立科学技術高等学校に通い、工学部を志望。先生のアドバイスや生物や化学への興味をきっかけに薬学部へ。現在は医薬生命化学分野を専門とする研究室に所属し、ポリマーナノ粒子を用いた新薬開発に取り組んでいる。平成29年度静岡時代奨学基金を受給。
◆静岡時代奨学基金 http://shizuokajidai.or.jp/shogaku/