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学問は人の役にたてますか?〜静岡理工科大学 小林 久理眞先生

2016年、静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科の小林久理眞先生の研究室が、従来のネオジウム磁石に比べ、希土類(レアアース)の使用量をほぼ半減できる新材料を発見しました。一躍、日の目を浴びた磁石の研究ですが、小林先生いわく、そのきっかけは純粋な「興味だけ」。今回は、先生の功績とこれまでの研究体験を通して、「学問とは何か」を改めて考えていくインタビューをお送りします。

小林 久理眞先生

静岡理工科大学 理工学部 物質生命科学科 教授。専門は磁性材料、永久磁石材料。東京工業大学では、現在扱っているネオジウム磁石に類する無機材料を扱っていたそうだ。

レアアースの使用量を大幅削減。全国から注目を集める磁石研究

——ハイブリッド自動車や電気自動車のモータなどに使われるネオジウム磁石は永久磁石の中でも最も強いと言われています。まず永久磁石と、ネオジウム磁石とその有用性について教えてください。

磁性を帯びる物質のうち、磁力を放出しつづける物質を永久磁石と言います。普通の物質は磁性を帯びたとしても、磁場がかかっている時にしか磁性を示しません。銅やアルミがその例ですね。それに比べて、永久磁石は一度、磁力を帯びて磁力線を発生し始めると、徐々に弱くなっていく。でも、それは見かけ上の話で実は磁力をずっと出し続けています。
人間も同じですけど、最大の能力を出し続けるのにはエネルギが要ります。磁性体もずっと自分の最大限の磁力を出し続けるにはエネルギが要りますから、休んでいる状態をつくらなくてはなりません。

例えば鉄の釘を磁石でこすって、釘を砂場に近づけると、始めは多くの砂鉄が付くけど徐々に付かなくなってしまう。何が起きているかというと、こすった時は NとSが表に多く出ています。ところが、時間が経つと最大限の磁力を出し続けられなくなり、釘の中でNとSが色んな方向を向き始めて、外にはあまり磁力は出さなくなってしまうのです。

身の回りの永久磁石の例を挙げると、ホワイトボードに付けるようなマグネットやワッペンがありますが、あれはフェライトと言って磁石としてはあまり強くありません。ハイブリッド自動車や電気自動車を動かすモータに使われる磁石は強力でなければ話になりません。そういうものには鉄以外に、量は少ないですけど希土類(レアアース)を混ぜているのです。それによって、磁気を特定の方向に強く向ける異方性を保ち、磁力が強くなります。それに主成分が鉄だけだと、砂場の例のように磁力が色んな方向を向いてしまう上に、酸化する分だけ鉄が目減りしてしまう。酸素の分だけ磁力が弱くなってしまうわけです。それは困るので、磁力が落ちることのないように希土類を混ぜる。その希土類を使った磁石の中でも強力なのがネオジウム磁石です。

——小林先生たちが開発された新材料は希土類を減らした上で、ネオジウム磁石並みの性能を有していることから、希土類の中国依存のリスク減も期待されています。

希土類は中国でも限られた地域でしか採れません。インドでも希土類は採れますが、放射能を発生する物質とその鉱石が混ざってしまっていることがある。ですから、ネオジウム磁石にどうしても必要とされる元素(なかでもディスプロシウム)を安全に採れるのは中国だけです。何年か前に政治的な交渉の道具として使われたように、それほど中国の寡占状態なのです。

「物事を始めるとき、人は頭を殴られるぐらいの衝撃的な出会いをする」と話す小林先生。

磁石も素粒子も、サンスクリット語も「役に立つ」のは偶然です

そうした背景もあって、10年ほど前から特殊なレアアースをあまり使わずに強いネオジウム磁石を作る研究に日本政府も力を入れ始めました。先ほど自動車のモータにはネオジウム磁石が使われていると言いましたが、日本経済の屋台骨となる業界の一つが自動車メーカーです。自動車メーカーにとって永久磁石、特に希土類磁石は死活問題ですからね。おそらく磁石の研究だけで、年間10〜20億の研究費が出ていると思います。それほど、ハイブリッドカーや電気自動車に積む磁石をなんとかしたいというニーズが強いということです。

でも、私は若いときから30年近く、ずっと磁石を研究してきました。冷や飯食いの時代から磁石なんですよ。「お金とれないんだから辞めたら?」と言われたこともありましたけど、偉い先生から「小林、おまえは辞めちゃだめだよ」と言われて、私も単純ですから「あの先生がそう言うなら……」とずっと続けてきました。

そもそも研究者になる人ってどういう人だと思いますか? ほとんどの研究者は自分がすごく興味があるから研究をしています。社会貢献や人類を幸福にするためとかではなく、興味があることをやり続けていたら「たまたま」役に立つんですよ。例えば、素粒子の研究でノーベル賞をもらっている人たちにしても今は何の役に立つのか分からない。でも、もしかしたらそれによって百年後に膨大なエネルギを生むような装置を作れるようになるかもしれない。その時に初めて価値が分かります。それは文学も同じで、サンスクリット語のような今は誰も使わない、昔の文献を読むためだけに使うような言葉だけど、いずれどこかで読める人がいるということはものすごくいいことにつながると思っているから研究もするし、お金を出す人もいるわけです。

研究には応用研究だけでなく、基礎研究があります。基礎研究ははっきり言って何の役に立つか分からないですよ。でも今までの歴史がそうだったように、その時は何のために研究していたか分からないことが、何十年、何百年経ったらすごくいいことを研究してくれていたねって思うんですよ。
ただ、それには人との出会いや運も必要で、どうしようもない程に研究にはまることが必要です。だから私は、高校生の皆さんには大学時代、もっと言えば今の瞬間からでも何か目標を見つけて、頑張れる理由を自分なりに見つけてくれればと思います。

——純粋に「知りたいから」というところが出発点。そこからの道は様々ですが、基礎研究にあたる自分の中の興味を引き出すのが大学時代なのだなと思います[了]

学問の入り口にオススメな本!
小林久理眞『したしむ磁性』朝倉書店(1999)

静岡理工科大学

〒437-0032 静岡県袋井市豊沢2200−2
http://www.sist.ac.jp/

→この記事は、高校生向け大学情報誌『ハイスクール静岡時代』より抜粋して掲載しています。

ハイスクール静岡時代

静岡県の高校生のためのアカデミック情報誌。2016年創刊。普段、大学で配布している『静岡時代』に文理選択に役立つ情報や、より具体的な県内大学での学びや大学生たちの様子を掲載。静岡県全高校の1年生に無料配布(静岡県教育委員会後援、公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム企画協力)。ハイスクール静岡時代についての質問・感想等は、お問い合わせフォームからご連絡ください。


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