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2017-03-06

有用・安全・容易、三拍子揃った一酸化炭素を目指して〜静岡県立大学 薬学部 永井晶大さん

静岡時代の自己資金・寄付金などにより実施された「静岡時代奨学基金」。平成29年度の給付生のひとり、静岡県立大学の永井晶大さんは現在、一酸化炭素を発生させる物質の製成に尽力している学生です。一般的に、一酸化炭素は危険というイメージがつきものですが、化学の世界では薬、化粧品、工業製品の原料になるなど、幅広い用途が期待される物質。永井さんの研究がいつか、私たちの健康や暮らしに、明るい未来をもたらすかもしれません。

一酸化炭素のイメージをくつがえす化学研究

「一酸化炭素」というと、何を思い浮かべるでしょうか? 危険? もしかしたら「クリーンなイメージがない」という人もいるかもしれません。実際に一酸化炭素中毒で知られているように、研究の世界でも事故の危険と常に隣り合わせ。でも、実は化学的にみると、一酸化炭素はとても有能。さまざまな化学反応をおこすオールラウンダーなんです。

どのように有用かというと、例えばビタミンAや界面活性剤など、化粧品から工業製品まで多くの化学物質の化学原料となります。更に、反応性が高く様々な合成に使用される「カルボニル基」という構造をつくるためにも使われます。つまり、一酸化炭素は創薬研究を行う研究者にとっても、身近な生活においても、広く役立つ気体ということです。

静岡県立大学薬学部の永井晶大さんは、そんな有用でありながら、無色透明、匂いもなく危険とされる一酸化炭素を簡単かつ安全に使用する方法を研究しています。そのためには、気体である一酸化炭素を容器内で発生させて消費する仕組みをつくる必要があります。永井さんが製成しているのは、「一酸化炭素等価体」という、化学合成により一酸化炭素を発生させる物質です。

トライ&エラーの先にある、新しい物質を目指して

「市販の等価体もありますが、酸性条件下では使えず、副生成物(副生したあとのゴミ)ができるために用途が限られます。より幅広く使える等価体を作れば、広く基礎研究に役立てられます」
永井さんが研究をはじめたのは4年生の4月。永井さんの研究室では一酸化炭素を用いることは共通のテーマですが、すでにある物質をよりよい条件で生成する研究と、永井さんのように新しい反応を助ける物質をつくる研究とに大きく分かれるそうです。

「先行研究がないので、論文を出したら自分と先生の名前だけです。その分、失敗も続きます。実験をはじめてから約1年、今までに試した物質は30個ほど。その中で一酸化炭素が出たのは2個だけです。物質から一酸化炭素が生成されると探知機がピーピー鳴るんですが、鳴った時はすごいうれしい。糸口が見つけられた瞬間はすごくハッピーです」

成功した2つの一酸化炭素等価体のうち、1つは既製品より使いにくく、もう1個はまだ検査中。実際使えるか調べるのにも夏・秋と2つ季節が変わるくらい時間がかかるそうです。一日でいうと、朝9時から18時は必ず、長くなると深夜2時まで研究室にいることも。日々研究に励む姿は、「点滴石を穿つ」という言葉を思い起こさせます〈了〉

[取材/文:河田弥歩(静岡大学 人文社会科学部)]

静岡県立大学 薬学部4年
永井 晶大さん

研究をしながらその合間には、次の研究に向けての調べものや薬剤師の資格を取るための勉強に励む。大学で得た知識を日常や地域社会の役に立てたいと奮闘中。バイトをしている時間も頭の中を占めるのは、勉強や研究についてだという。平成29年度静岡時代奨学基金 特別賞。
◆静岡時代奨学基金 http://shizuokajidai.or.jp/shogaku/


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