生きたウイルスは面白い!〜 静岡県立大学 薬食生命科総合学府 田本千尋さん
ウイルスはどこかメカっぽいところが面白い」。そう語るのは、静岡県立大学の薬食生命科総合学府に所属する田本千尋さん。聞くと、ウイルスというのは、遺伝子とタンパク質、それを覆う膜のみという単純な構造で、他の生物の細胞を借りないと増えることができず、自力で増殖していく細菌とも大きく異なるそうです。今回は、静岡時代が設立した奨学金制度「静岡時代奨学基金」の平成29年《静岡時代部門 特別賞》を獲得した田本さんの研究活動を取材しました。
田本 千尋さん
静岡県立大学 薬食生命科総合学府 生化学分野1年。研究室配属を決める際には、学生同士仲が良く、研究もしっかりできる環境に惹かれて、現在所属する生物化学研究室を選択した。平成29年度静岡時代奨学基金「静岡時代部門」特別賞。静岡時代奨学基金で得た資金は、研究室の先生・衛生研の方と相談中というが、準備量の膨大な同チップの無菌処理効率を上げるキット購入に充てたいと希望を教えてくれた。
およそ100年以上つづく、人vsインフルエンザウイルスとの攻防戦
田本さんが所属する生化学研究室では、静岡県環境衛生研究所と共同でインフルエンザウイルスを蛍光試薬(BTB3-Neu5Ac)で光らせる手法での検査法の確立を目指した研究を行っている。インフルエンザウイルスといえば、近年、タミフルなどの治療薬が効きにくい「薬剤耐性ウイルス」が増えてきています。10年ほど前には、3種類ある流行型のウイルスのうちの一つ、ソ連型ウイルスにすべての薬剤が効かなくなるということもありました。
現在、インフルエンザウイルスの検体検査の現場では、ウイルスがどの型なのかを調べることに手一杯で、薬剤耐性ウイルスの検出方法が確立されていません。これまでの検査は、ウイルスの情報である遺伝子を取り出して、すでにわかっている薬剤耐性ウイルスの遺伝子型(〜ウイルスの遺伝子の配列?)と照合して調べるために、新たな型の遺伝子を持つ薬剤耐性ウイルスは検出できないという限界がありました。
原動力は、研究欲と好奇心と負けず嫌いと
今回のウイルスを光らせる方法は、A香港型など主な三つの型のウイルスに使われている治療薬4種類の掛け合わせ、計12パターンについて調べることができる。通常はインフルエンザウイルスが持つ酵素と試薬が反応すると蛍光を示す。治療薬を加えるとインフルエンザウイルスが持つ酵素の働きを抑えるので光らない。しかし、薬剤耐性ウイルスは治療薬が酵素の働きを抑えることができないので蛍光を示す。このように、インフルエンザウイルスが持つ酵素に反応して蛍光を示す試薬と治療薬を加えることでパッと見で薬剤耐性か否かわかるというものだ。
「今は試薬の濃度と感度との闘いの真っ最中です」と田本さん。薬剤耐性ウイルス検出には、検査精度を上げるため、ある程度の蛍光が発せられることが必要で、それには試薬濃度をあげる必要があります。しかし、濃度が濃すぎると非特異的な反応が起こり検査の精度が落ちてしまう。また研究に使う、実際の患者検体から検出されたウイルスは、培養されたウイルスに比べ濃度が薄く反応しづらいという問題も。
こうした条件下で最適な試薬量を見出さなければならず、そのためには多くの実験数を要する。厳密な測定のためほとんどが使い捨ての実験道具も「1箱96個入りのチップを1回の実験だけで4〜5箱使い切る」ほどだそう。
「大学2年の後期に「ウイルス学」という授業を受けたんですよ。広範囲に及ぶウイルスの種類を実際の病気や薬剤とからめて学んでいきます。同じ部活の先輩もウイルスを学んでいる人がいたり、気づいたら自分もウイルスって面白いなあ、と思うようになりました」。もともとは農学部志望で、そこから薬学部へ進学した田本さん。研究の種という好奇心は意外なところに転がっていることを教えてくれます[了]
静岡県立大学
〒422-8002 静岡県静岡市 駿河区谷田52−1
http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/
[静岡時代奨学基金]
平成28年度設立。静岡県内の卒業生・卒業していく大学生が後輩学生へ贈る、返還不要の「学びのための奨学金」です。詳細は下記URLからご覧いただけます。