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2017-04-27

SPACのスタッフが語る、自由な自分への道標

静岡文化芸術大学で劇団を立ち上げた大場麗央奈さん(写真:右)が、凝り固まった自意識からの脱出のヒントをSPACのみなさんに聞いた。

[文:寺島美夏・文(静岡大学人文社会科学部3年)/写真:河田弥歩(静岡大学人文社会科学部4年)]

大場 麗央奈さん

静岡文化芸術大学デザイン学部メディア造形学科4年。自身が立ち上げた劇団マエカラサカナアでは脚本・演出を務める。7月14、15 日には文芸大にて公演『イきたがり』を開催予定。

▶︎講師の先生(お話を聞いた皆さん)

Q.俳優として役についたイメージや自分らしさとどう向き合っていますか?

[吉見先生]演劇のように芸術と呼ばれるものは新しいものの創造が絶対に不可欠。けれど僕たちは絶対に過去からも教訓を得ているし、現在の自分は様々な過去を内包してできていて無視することはできません。なので、他の公演や原作から取り入れられる所は取り入れ、それを踏まえて新たに役を作っています。

例えば、SPACで上演した『ロミオとジュリエット』で僕はマキューシオの役をやりました。参考に見た映画版のマキューシオは、黒人の俳優さん演じる陽気なキャラクターが重要な役割を果たしていたので、映画からは陽気さを、さらに原作のマキューシオの人生から高杉晋作を連想したり、色んな要素を取り入れ、広げて新たな役を作っています。

自分らしさというのは拭い難くあると思います。SPAC芸術総監督・宮城聰の言葉で「仁(にん)」といいますが、歌舞伎用語で役柄にふさわしい雰囲気などを意味します。この役はこの俳優の仁にあっているとか、いないとか、要はその人らしさです。それは生まれ持ったもので、自分ではどうすることも出来ない、受け入れるしかないです。ただ、諦めて同じことしかしないというのは違います。何年も経てできた美学や固定概念を、一回壊して再構築して、それをまた疑って考え直すという事の積み重ねが必要だと僕は思います。

Q.他公演の衣裳デザインや自分の作風を意識して衣裳を作りますか?

[駒井先生]どちらもあまり意識していません。製作時は、他の劇団の公演で演じられた衣裳に興味はあっても意識しないようにしています。なぜなら、自分の関わる舞台に出るスタッフや俳優は自分の目の前にしかいないからです。

他の劇団の表現で気に入ったものがあっても、役の捉え方は俳優によって様々。常に目の前の舞台でベストになるものを作るように考えています。自分自身の作風は、癖や好きなデザインを離れようとしても結局たどり着いてしまうものです。なので意識しすぎず、目の前で「こういう風にやりたい」という演出家の思い描いたものを、自分のやり方で実現する方法を考えます。そうはいっても言われたとおりに作るのではこの仕事の意味がありません。要望を聞いて考える中で、自分でも納得のいく衣裳になるようにデザインを考えます。それを実践する為に、自分が本当に好きだと思うものを意識できるように心がけています。舞台を作る時、自分が納得せずに作ったものは観る側にもすぐにばれますし、良い舞台にできません。演劇を観ることはこの好きなものやそうでないものを意識する為のトレーニングになります。

私達は人に言われたから好きなのか、本当に好きなのかわからない「好き」を持っています。みんなはヒーローが好きでもあなたは悪役が好きかもしれません。演劇には美しいものも、時として気持ち悪いと感じるものも出てきます。それを意識してください。本当に自分が好きなものを知ることはきっとあなたの武器になりますよ。

Q.(作品と観客をつなぐ立場から)演劇を見てどんな自分に出会ってほしいですか?

[雪岡先生]感動する自分と出会ってほしいですね。笑ったり泣いたり幸せに思ったり、心が躍り、揺れる体験です。私自身、大学時代に初めて演劇を観て、その魅力にハマりました。作品を観た後に、自分の心がどのポイントでどれくらい動いたのかをじっくりと見つめることは、自分がどういう「枠」を持っているかを知る一つの方法だと思います。そのおためしの場として、学生の皆さんに是非お勧めしたいのは、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」が原作の舞台『ウェルテル!』です。今年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」で私が担当しているドイツの作品なのですが、若者が葛藤する姿は、学生の皆さんの感性にもピッタリ合うと思います。

主人公ウェルテルは、婚約者のいるロッテという女性に片思いし、報われない恋に悩んでいます。「愛しいロッテがこの世のすべてだ!」と思い込み、その自意識の「枠」から抜け出せずにいる青年の姿を、私たちは舞台上で目撃します。悲痛な愛の叫びが胸に刺さる一方で、そういう状況だからこそ生まれるユーモアが笑いを誘う場面もあって、とても面白い作品です。

この作品に限らず演劇を観ることを通して、皆さんの心の中にある感動の針が、どんなところで振れるのかを試しに、劇場に遊びに来てください。自分の新たな一面を知るきっかけになるかもしれません。

プロの考えを聞いて、その後ーー

「枠」を越えるのは、独力ではなかなか難しいものです。演出の指導をはじめ、他者からの刺激が不可欠です。SPACは表方と裏方、さらに制作の方々も同じ場所で時間を共有しています。そうした他部署との濃密な交流が、私たちを枠外へと連れ出してくれるきっかけに繋がるのでしょう。お客さんの目には、個人技の煌めきばかりが映りがちですが、実は演劇は制作過程で、他者の存在を強く感じる芸術なんですよね。(大場 麗央奈)

SPACからのお知らせ

ふじのくに⇄せかい演劇祭

2017年4月28日(金)~5月7日(日)

http://festival-shizuoka.jp/

静岡芸術劇場 舞台芸術公園 駿府城公園ほか

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