知の地図をつくろう

小さな生き物と、茶畑を歩こう〜世界のお茶処 静岡で学べる特別授業

藤枝市仮宿に、東京ドーム3個分の面積といわれる静岡大学の藤枝フィールドがあります。146種類の農作物が育てられ、学生が農業体験を元に農業知識や技術を学べる施設です。「茶摘みの衣装、着たい人ー、男子もいいよー」。静岡大学農学部の稲垣栄洋先生のこんな一声からふじのくに学(お茶)の野外実習が始まりました。全4日間の座学・野外実習で農学・マーケティング・日本文化論・栄養科学など、大学も専門も超えて「お茶」を捉え直す。飲むだけじゃない、茶学入門!

[文:柴田萌(静岡大学人文社会科学部)/写真:加藤佑里子(静岡大学人文社会科学部)]

ふじのくに学

ふじのくに地域・大学コンソーシアムによる短期集中講義。
農学・日本文化学・経営学など、多様な観点からお茶を学び、野外実習では茶町の茶商と茶草場農法が残る掛川市東山を訪問。学生40名が受講。

http://www.fujinokuni-consortium.or.jp/

茶摘みの衣装といえば、童謡『茶摘』で知られる「茜だすきに菅の笠♪」。
藍色の生地に茜色のたすきがよく映えます。茜には抗菌活性のはたらきがあり、傷口から入る病原菌や害虫が寄ってくるのを防いでくれるそう。

お茶にすべてを賭けた時代。消耗品と嗜好品、それぞれのお茶

日本茶の消費量は世界で飲まれているTEAの5%未満。国内の茶市場が縮小していく中で、どう売り出していくかが課題です。でも歴史を振り返れば、同じような時期があったそうです。

「幕末から明治にかけて日本茶は『JAPAN TEA』とブランド化され、アメリカなどに輸出されていたんだよ」
今回の「ふじのくに学」の先生の一人、藤枝市にある茶問屋の西野真さんによると、日本茶の優れた製造技術と品質は、海外にも誇れる武器でした。

しかし、生産体制の大型化が推進された戦後、茶業界で生き残ることができたのは、そういった味や香りの個性を守る農家や問屋ではなく、品質に執着しない大量生産により安価なお茶を提供する業者だったのです。お茶処・静岡も例外ではありませんでした。

安く簡単に手に入るペットボトルの茶は画期的で、今の時代、それで事足りているように感じてしまいます。しかしそれは茶を「消耗品」として捉えているからかもしれません。かつて、時に海を越えて、人々は味や香りにこだわりを持ち、茶を「嗜好品」として扱っていました。「静岡では、嗜好品としての茶の存続と安価な茶の2通りを進めていくべきだった」という西野さん。静岡茶が辿った歴史について考えさせられました。

茶問屋の西野真さん

海外に輸出した国産茶の銘柄ポスター。『JAPAN TEA』と書かれています。

新しいお茶のマーケティング。茶畑がつくる生態系

品質はもちろん、でもそれだけではないブランドを持つお茶処が静岡県にあります。掛川市東山地区の茶畑の周りには、大小様々な茶草場が点在しています。

茶草場とは茶畑周辺の採草地で、これは静岡に特徴的に見られる風景です。茶草場に生えたススキなどの草を刈り、乾燥させて刻んだものを畝間に敷くことを茶草場農法といいます。この農法が、土地の生態系を保全しているとして、世界農業遺産に認定されました。

「『中程度攪乱仮説』といって、生物の種類は適度な自然への関わり方で最大になります。草を刈り、藪が生い茂るのを防ぐことで、本来なら暗い藪の中では生息できない草花さえも育つことができるのです」と稲垣先生。ハルリンドウやショウジョウバカマなどの、小さくてかわいらしい植物たちが健気に根を張っている姿を見ることができます。

驚くべきはこれが意図的ではないこと。草を刈って干し、茶畑に運ぶのはとても大変ですが、上質なお茶を育てます。手間を省いた効率的なモノの生産が主流になるなか、静岡の茶農家が一手間かけて質の良いお茶を作り続けてきたことが、実はその足元で生態系の保全に繋がっているのです。[了]

「茶草馬農法をはじめとする静岡の茶やその風景は、人々のお茶に対するこだわりが消えたらなくなってしまうもの。文化と人との、切っても切れない関係をつくづく感じました。」という、取材者の柴田萌。

静岡時代最新号情報

静岡時代45号
特集《SPACの現場に学ぶ常識の外し方》

この記事は静岡時代45号に掲載されています。
今回の号は、静岡県が設立した公立劇団ーSPACーが舞台。自分という枠をどこまで突き破れるかを掘り下げていきます。県内のすべての大学・一部の高校にて配布・設置しています。


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