知の地図をつくろう

舞台芸術のつくりかた〜静岡舞台芸術劇場で覗いた「幕の向こう側」

脚本の執筆から稽古場での話し合い、衣裳や大道具の製作……。多くの作業の積み重ねが舞台を支えている。「現実」という枠を超えた、新しい世界を創造している舞台裏の人々はまさにプロフェッショナル集団。今回は、その活動拠点である静岡芸術劇場の「幕の向こう側」に静岡時代が潜入した。

[文:柴田萌(静岡大学人文社会科学部2年)/写真:河田弥歩(静岡大学人文社会科学部4年)]

SPAC

静岡県舞台芸術センターは、静岡県が設立した公立劇団。
専用の劇場や稽古場を拠点に、俳優・舞台技術・制作スタッフが活動する。活動20周年を迎えたSPACでは、演劇作品の創作のほか、2017年4月28日(金)〜5月7日(日)、ふじのくに⇄せかい演劇祭を開催。海外の話題作や駿府城公園でのSPAC作品にも注目です。

http://festival-shizuoka.jp/

《真夏の夜の夢》
よく見るとセットも衣裳も新聞紙がモチーフに。これは言葉遊びが豊富に盛り込まれた野田秀樹さん潤色の脚本に因んでいるという。言葉・文字の媒体の代表として新聞紙が使われたとのこと。思いがけない趣向が凝らされている。
©︎SPAC,photo by NAKANO EIJI

「知られざる森」の実相。人の手によって作られた新天地

3月上旬、中高生鑑賞事業公演で上演されていた『真夏の夜の夢』を静岡芸術劇場に観に行った。開演時刻になり、視界が真っ暗になって、最初は騒がしかった中学生たちも急に静かになる。
観客、スタッフ―― 劇場にいる人たち全ての緊張感が伝わってくるようだった。今日は物語を楽しむのではなく、舞台に凝らされた技巧を探ろうと意気込んでいたのに、気付いたら「知られざる森」で繰り広げられる出来事に引き込まれていた。終演後、出演者が衣裳を着たままエントランスに出てきて見送ってくれた。さっきまで別世界にいた登場人物が、役の面影を残しながらも日常に生きる一人の人間となり、一緒に写真を撮ったり、質問に答えたりしてくれる。直接会話することによって、登場人物に対する親近感がグッと増した気がした。クオリティーと同時に、この交流の時間が愛される劇団の秘訣なのではないだろうか。

後日、『真夏の夜の夢』の裏側を見せてもらった。SPACでは俳優のほかに総勢50名程のスタッフが、創作・技術部、制作部、文芸部に分かれ、同じ屋根の下で舞台を作っている。今回案内してくださったのは、制作部の坂本彩子さん。「本当はカラフルな格好が好きで、普段はもう少し色のついた服を着ています」とおっしゃる坂本さんは、黒い服がよくお似合いだ。緊急時すぐに黒子になれるよう、スタッフは基本的に足先まで黒を身に付けるそうだ。暗い劇場内で足下を照らすため、小さなライトを常備していることも教えてくれた。

華やかな舞台上も終演後には舞台裏に一変する。舞台前方では創作・技術部のスタッフが紙吹雪を片付け、後方では役者たちが自分で演奏した楽器を調整している。今日上演された『真夏の夜の夢』は片付けられ、明日の『真夏の夜の夢』への準備が着々と進められていた。あの「知られざる森」は、元々どこかに存在しているものでも、どこからともなく現れるものでもなく、舞台に携わる人々の営みによって作り出されているのだ。

客席もまるで一つの作品のようで、誰も座っていないと、立毛品でできた400席もの深紅のシートが一層輝いて見えた。客席は馬蹄形を描き、比較的奥行きが浅い。その造りから、どの席に座っても間近で舞台の迫力を味わえるそうだ。実際、私は一番後ろの席から鑑賞したけれど、確かに舞台は近かった。緞帳とプロセニアム(舞台を囲む額縁のようなもの)が無い点も特徴で、多くの人が舞台に対して抱いているであろう、独特の堅苦しさがこの劇場にはないように感じる。舞台と客席の間の壁を取りはらうことにより、劇場内の一体感が生まれる。

劇場の一階には開放感あるロビーがあって、これまでに上演された作品の数々と、俳優陣の写真が飾ってある。作品にもよるが、一つの演目に出演する役者は多い時には30名にものぼる。
舞台の演出は演出家の独断、というイメージがあったけれど、劇団SPACは違った。夕方、リハーサル室では演出の宮城聰さんと俳優陣が5月に上演する『アンティゴネ 〜時を超える送り火〜』に関する話し合いを行っていた。実は半数以上の俳優が先程の『真夏の夜の夢』に出演していたメンバーで、本番のあとに次の作品の稽古をしている。稽古が少し遅めの時間に始まるのもこのためだ。

練習着姿の役者たちの顔に1時間前の笑顔は無く、独特の緊張感が流れていて、私は無意識に正座していた。でもすぐに足がしびれ、集中力が切れてしまった。舞台に携わる人たちの忍耐力はすごい。本の読み合わせ中、宮城さんの口から「直接民主主義」や「人口ピラミッド」という言葉が出てきた。このギリシア悲劇が書かれた当時の社会の構造をひもといているようだ。劇中の世界観を生み出す登場人物の台詞の響きや所作は、演じる役者たちによる時代背景や登場人物のキャラクターの追求・共有があって実現している。レオナルド・ダ・ヴィンチは絵を描くときに、対象物の内面的な部分まで緻密に学んでいたと聞いたことがあるけれど、それに似ていると思った。何か表現したいものがあるとき、そのものをよく理解するプロセスが欠かせないのは、あらゆる場面で共通しているのかもしれない。

扉の向こうはリハーサル室。

ピリッとした空気が漂う、稽古場の様子

稽古場の目と鼻の先には、衣裳製作室と洗濯室がある。早速『真夏の夜の夢』で着用された23人分の衣裳がクリーニングされていた。毎回終演後に、衣裳が、しかもこの人数分洗われているとは驚きだった。この演目では、ポールの上り下りなどアクティブな動きが多いため、衣裳がよく破けてしまうが、すぐに修繕できるという。役者との距離が物理的に近い。作る側と身に付ける側、普段からお互いの顔が見える距離にいるからこそ、些細な調整も可能になる。一つ一つの小さな改善が、全体の質の向上に大きく貢献しているのではないだろうか。俳優と観客の間だけでなく、幕の裏側にも、部署の枠を超えた会話が溢れているSPAC。「無くてもやっていけるけど、あった方が断然良いやりとり」を割愛しない、妥協を許さない姿勢を感じる。

買ってきた布を加工するための必須アイテム

客席で味わう非日常は、そこから見えないこだわりの蓄積があって、はじめて現出するもののようだ。劇場の方々、ありがとうございます。でもやっぱり、舞台を鑑賞する際には、何も考えず非日常に浸っていたいと思う[了]

舞台芸術の世界をもっと掘り下げたい人にオススメの書籍

わかりあえないことからーコミュニケーション能力とは何か
講談社現代新書 平田オリザ著

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授で、劇作家・演出家でもある著者が、現代企業が若者に求める「コミュニケーション能力」とは何か答えを探し求める

SPACからのお知らせ

ふじのくに⇄せかい演劇祭

2017年4月28日(金)〜5月7日(日)
http://festival-shizuoka.jp/
静岡芸術劇場 舞台芸術公園 駿府城公園ほか


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