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2018-05-29

ここは隠れジャズの地「静岡」。大人の世界を垣間見よう②

松本剛昭先生(静岡大学理学部化学科准教授)と考えるジャズを日常に生かす方法

――大学生の多くは、ジャズに馴染みがありません。その理由の一つにジャズはわかりづらいものという意識があります。そもそもジャズとはどのようなものでしょうか。

敷居が高いと感じるかはジャズをどう聴くかによって変わってくると思います。例えば聴くのではなくて、聞こえてくると考えたら、街や店にジャズは溢れています。ところが、ジャズの仕組みがどうなっているのかを考え始めると訳が分からなくなる。J-POPだったら歌詞があり、それを通して音楽を理解しようとする。けれども、ジャズのほとんどが楽器だけのいわゆるインスト。それが難しい原因かもしれません。ジャズはどういう風に演奏されているんだろう、ともし興味を持つのであれば、少し勉強する必要があります。
よく弾かれているジャズは、一九二〇〜三〇年代にアメリカで流行った歌謡曲やポピュラーな曲のメロディに基づいて即興演奏がされています。例えばそれぞれの曲は、メロディや和音の構成は決まっている。ところが演奏者は、そのメロディを崩したり和音の上に即興でフレーズを作ったりして演奏します。そこにミュージシャンの個性がでてきて、同じ曲なのに違う曲に聞こえたりする。一つに決まってないんです。あるいは同じ人が同じ曲を演奏するときでも、その日の体調とか気分とかによって演奏が変わります。今日・明日・明後日と、演奏が変わってくる。ジャズは生き物みたいな音楽なんです。

――クラシックだと楽譜があって、その通りに弾くのが絶対というか普通なんですが、ジャズだと即興で弾かなければならず、難しいですよね。

「楽譜」で思い出したんだけど、なぜか研究室に楽譜が……。これがジャズのスタンダードと呼ばれるもので、アメリカの映画音楽などの曲が、ジャズ用に編曲されたものです。例えば「枯葉」って聞いたことあります?(インタビューの最中に先生、「枯葉」を弾いてくれました)
これがワンコーラスです。CmとかF₇とかあるけれど、この和音に乗せるように、勝手にメロディを崩していくんですよ。ただし、そこにはちゃんと理屈がある。こういうキーのとき、このコードだったらこんな音階を使いなさい、というのがジャズ理論として確立されている。しかし、その理論のままだと面白くないので、自分なりにその理論を発展させていく。あらかじめ自分だったらこんなフレーズ作れるだろう、というフレーズの引き出しを多くしておき、演奏の場の雰囲気によって、使えそうならやってみたりしています。
一般的に、ジャズの演奏は会話に似ていると言われます。例えば何かを聞かれて応える。それと同じで、ジャズの演奏も曲の間で本来なら、この和音をピアノが弾いてほしいときに、ピアノの人がわざと違うぶっとんだ和音をキャーンと鳴らすことがあるんですよ。要はそうして個性を出す。そのとき「あ、なんかピアノの人がやってるな」って他の演奏者が気付くわけよね。それに応えて自分も合わせながら変えていきます。
しかし、会話は否定することもできます。誰かが仕掛けてきたから必ずついていかないといけないかというと、そうでもありません。あえて無視することもあります。仕掛けた方もそれを察してやめておくというのが曲中続いてる。このように会話をするように演奏をしています。
これにはトレーニングも必要です。普段からバンドなど人と合わせる機会があれば瞬時に対応できるようになります。あるいはCDなどもお手本にします。皆それを聞いて、あのやりとりかっこいいよねといって、まねしたり勉強したりしているんですよ。

――せっかくここまで知れたジャズを毎日の生活の中で活かせると毎日の生活が楽しくなれるような気がします。どうしたらよいでしょうか。

ジャズを聴くこととは変わってくるかもしれませんが、その上にある生き方を考えましょう。一つキーワードがあります。それは「ジャズな人」という言葉です。これはタモリが言った言葉です。例えば型にはまっていない人とか、何にでも好奇心旺盛な人とか、周辺の人となんか面白おかしいことがすぐ出来ちゃう人。例えば二人でなんかやろうかっていうときに、ジャズな人は、一+一が二ではなくおそらく三か四になる。つまり、一緒になることで相乗効果が生まれ、面白いことを増幅できるような人を、おそらく彼は「ジャズな人」と言っているんだと思います。ジャズの演奏で言えば、例えば四人で演奏するとします。個々の実力は普通なのに、四人が集まるとなぜか素晴らしい演奏になる。それはおそらくそれぞれがジャズな人だからなんです。
先ほども説明したとおり、ジャズを演奏するには音楽の性質上、周りの状況や様子に敏感である必要があります。言い換えると、アンテナを張り巡らせておかないと全く成立しない音楽です。この考えを当てはめるならば、ジャズな人になるには、物事に対する自分のアンテナの感度を常に上げておくことが大切だと言えます。自分の周りのちょっとしたことでも、自分の生き方などに活かせそうとなるべく拾い上げるようにする。自分に合わないからといって食わず嫌いしてしまうことって多いよね。だけど、そこをぐっと踏みとどまって、もしかしたら面白いかもしれないと取り入れるようにしていくと、ジャズな人に近づいていけると思います。反対に、物事に対して惰性になってしまっているときは、アンテナが完全にオフになってしまっている。それが続くのはもったいない。ちょっと意識を変えて、様々なところから面白いネタを内にいれて面白おかしく生きていこうとする。そうすることで日常にジャズが活きてくると思いますよ。

松本剛昭先生
静岡大学理学部化学科准教授。大学時代にジャズの世界に触れ、かつては自身もサックス・フルート奏者として活躍。自身が今までで一番「ジャズな人」だと思ったのは女性ボーカリストのシーラ・ジョーダンだそう。

>>もっと深く考えたいひとへ「おすすめの一冊」

ピアニストを笑え(新潮文庫)山下洋輔・著
先生が十八歳の頃母親に渡されて読み、ジャズをやるきっかけになった本。フリージャズの名手山下洋輔によるエッセイ。本文にある「ジャズな人」の具体像がこれを読むとより分かる。続編の『ピアニストを二度笑え』も同時におすすめ。

構成・森下華菜(静岡大学教育学部)文・原裕太(静岡大学教育学部三年)写真・増山あかね(静岡大学人文社会科学部三年)

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