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2019-03-15

静岡県立美術館「1968年 激動の時代の芸術」~芸術作品との向き合い方~(後編)

 現在、静岡県立美術館では展覧会「1968年 激動の時代の芸術」が開催されています。本展では「1968年」を切り口にして、現代美術をはじめ、写真・演劇・舞踏・映画・建築・デザイン・漫画など多岐にわたる展示と、過激でエキセントリックな作品が話題を集めています。本展のテーマである「1968年」とは一体どういう時代だったのか。なぜ今「1968年」なのか。静岡時代・澤口翔斗(静岡大学人文社会科学部)が、この展覧会の仕掛け人の一人でもある、静岡県立美術館上席学芸員、川谷承子さんに伺ったお話を前編・後編に分けてお届け。その後編です。

前編は こちら

澤口 どういった経緯で今回の1968年展をやることになったのですか?

川谷 私はこのあたりの時代が専門分野なんです。それで2014年に静岡県立美術館で「グループ幻触と石子順造」という、この時代の静岡をテーマにした展覧会をやりました。その展覧会を見た千葉市美術館の学芸員から「ちょうどこういうの(1968年展)を企画してるんだけど一緒にやりませんか」という風に声をかけてもらって、北九州市立美術館の学芸員と三人で準備をしてきました。軸となる視点は、千葉の学芸員が打ち立てて、その後は三人でそれぞれの得意分野を補い合って一つの展覧会を作ったという感じです。

澤口 2014年のグループ幻触展と今回の1968年展では、どのような違いがあるんですか?

川谷 グループ幻触展は1950~70年くらいのグループの発足前から解散までを時系列で紹介しました。だから時間軸が幻触の方が長いです。また、静岡に特化した美術品を扱いました。今回は1968年とそのまわりの数年という短い期間ですが、しかし美術だけじゃなくて、写真・演劇・建築・音楽・文学・漫画など文化全体を見渡せるような内容になっていると思います。だから入り口が広くて楽しみやすいんじゃないかな。グループ幻触展のときは「美術!」っていう感じだったけど、今回はヒッピーの写真があったり、漫画があったり、レコードがあったり、ディスコのポスターとかもあるし。もちろんグループ幻触展と1968年展では、似てる作品とか同じ作品も展示されていますが、切り口が変わっているので、違う視点からより豊かに楽しむことができます。

澤口 確かに、こんなにバラエティに富んだ展示は初めて見ました!では、いま2019年に、この1968年展を開催する意味や理由を教えてください。

川谷 この時代の芸術は、ここ数年でかなり研究や調査が深まってきていています。静岡県立美術館ではグループ幻触展をやったり、千葉市美術館でも赤瀬川原平の展覧会がありました。モノ派の展覧会やプロヴォークの展覧会も近年、各地で開催されています。一個一個がテーマを立てて展覧会ができるくらい研究が蓄積されてきています。今回の1968年展では、これらを別々に展示するのではなく、1968年から50年経ったこの機会に、横に一緒に並べてみたら、より表層的ではないものや作品の持つ時代性みたいなものが見えるのではないか、と考えました。それからもう一つは、今からさらに50年後に同じ展覧会ができるかといったら、なんとも言えないんです。というのも、私たちはこの時代の熱気がなんとなく想像できるじゃないですか。私も1968年には生まれてないから直接は体験していないけど、テレビとか雑誌とかで、社会運動が多発していた当時の空気感は知っているし、私はその後の70年代の雰囲気は経験しているから。でもこれがさらに50年先の人になってくると当時の熱気が伝わらないかもしれない。ちょうど1968年って明治建国100年だったんですよ。それで今から50年先ということは、1968年が100年前になる。つまり50年前の人が明治初期を見るような感覚で50年後の人は1968年を見るということ。それはもはや遠い過去、歴史になってしまい、展示の意味が今回の展覧会とは変わってくるはずです。

澤口 1968年当時の空気が想像できる今だからこそやる価値があるんですね。では、そういう当時の社会運動の空気や今回展示されている過激な作品に対して、少しとっつきにくいようなイメージ、「危険」とか「怖い」という印象をもつ人もいるかもしれません。どういう風にこれらの作品を鑑賞して、楽しんだらいいのでしょうか。

川谷 とっつきにくいなと思っている人には、まずひとつには「こういう社会情勢を背景にこういう作品が生まれたんだ」というように歴史的に整理しながら、作品を捉えてもらうのがいいと思います。でもそういう理屈抜きに、ありのままの感覚で作品を見て「気持ち悪い」とか「怖い」とか思ってもらっても全然いいんです。例えば、今回の展示の万博コーナーに、裸になってお尻をこちらに向けた写真とかありましたよね。ああいうのが苦手な人もいるかもしれません。でも表現そのものって心地いいものじゃない。心地よければそれは自分の部屋の壁に飾って眺めていればいいわけで。本物の表現って、どこか危険なものであり、得体の知れないものなんだと思います。そういうところも含めて、ありのままで見てもらいたいです。

澤口 僕はそういった危険な表現に対して「かっこいい」とすごく惹かれました。

川谷 「かっこいい」というのは確かにあると思います。この時代の雑誌とかを見ると、当時の『an・an』なんかがそうなんだけど、外国人の女性モデルが表紙になっていたりするんです。あとは横尾忠則さんのポスターとかでも、ちょっとハーフっぽい女の子が使われていたり。今、改めて見てみると、やっぱり当時の人たちは欧米に対してのシンパシーや憧れが強くあったんじゃないかなと。戦争が1945年に終わり20年経って、少しは社会や経済が回復してきているけれども、それでもまだ貧しい時代で、海外旅行に行けるような時代でもなかった。だから欧米の文化などがとてもキラキラして見えたと思うんですよね。アーティストの人たちは特に敏感なので、いち早くそういう欧米的なものを、まだ完全には咀嚼できていない感こそありますが、和的なものにうまく取り入れている。今回の展覧会では、そういう欧米的な「かっこよさ」も感じられると思います。

澤口 次に、今回の1968年展からは離れて、静岡県立美術館のもつ魅力について教えてください。

川谷 1986年にできた美術館で、70年代80年代に日本の公立の美術館がいっぱいできるんですよね。その中では比較的、後からできた美術館ですけど、ロダン館があったり、クラシックな部分もあって、様々なジャンルをやるんですよね。現代美術館っていうのは現代しかやらないじゃないですか。静岡県立美術館では年に1、2回は現代のものをやるんですが、他の古いジャンルも紹介しながら、その中で現代を語っていくというスタンスをとっています。だから長い時間軸のなかで現代を捉える視点が必然的にもてる。お客さんもそうなのかなと思っていて。ここに通ってくれている人は、いろんな時空間を共有しながら、美術の大きな流れの中で、作品や人間の表現活動を、より多面的に見ることができる。そういう魅力が静岡県立美術館にはあるのかなって思います。

澤口 今回の1968年展は、まさしくそういう視点で楽しむことができました。最後に、大学生に向けたメッセージをください。

川谷 もう自分が完成していると思わないで欲しい。大学生っていうのは、大人の入り口という感じがします。私の経験から言うと、まだいくらでも修正ができる。それまでの蓄積はもちろん生かされると思いますが。なので、とにかく好奇心旺盛に、色々なものを見て、触れてください。そういう経験の中から、もしかすると今自分が立っている所とは全然違う地平に引き込まれていくということもあるだろうし。自分を固めないで、貪欲に首を突っ込んでもらえればと思います。あ、静岡県立美術館は大学生の入館料が無料ですから!全国的に見ても珍しいんですよ。是非、静岡県立美術館にも好奇心をもって遊びに来てください!

展覧会情報
開催場所:静岡県立美術館
開催期間:2019年2月10日(日)~3月24日(日)
開館時間:10:00~17:30(展示室の入室は17:00まで)
休館日:毎週月曜日
観覧料 前売券一般:800円/70歳以上:400円/大学生以下:無料
当日券一般:1,000円/70歳以上:500円/大学生以下:無料
URL:http://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/

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