「生き延びる力」〜そもそも強さってなんだろう?

そもそも「強さ」って何だろう? 現代社会で私たちが必要とする「強さ」。その原点を求めて、過酷な生存競争の中でしなやかに生きていく生物たちからその術を学ぶ。

[文:鈴木聖生(静岡大学人文社会科学部一年)/写真:柴田萌(静岡大学人文社会科学部二年)]

田中 克彦先生

東海大学海洋学部海洋生物学科講師。ウミクワガタなど、海産ベントスの多様性と生活史の解明に取り組んでいる。学生時代に下田での研修中、海綿の中に偶然いたウミクワガタに夢中になり、それ以来研究を続けている。

生き延びる為にえらんだ生き方

――生物は様々な過酷な環境に適応し、生き残っていくしなやかな強さを持っています。例えば、先生が研究されているウミクワガタは、生き残っていくための独特な生態を持っていると聞きました。どんな生態ですか。

私の研究するウミクワガタという生物は、ベントスという海底を生息域とする生物なのですが、彼らは幼生期の間は魚類に寄生し、血を吸って成長します。成体になると海底に移動し、繁殖を行ってその一生を終えます。

どうして彼らがこのような生態をとるようになったか、というのは未だはっきりとはしていないのですが、ひとつ考えられるのは「捕食から逃れるため」ではないかということです。「クリーナーフィッシュ」という生物を知っていますか? これは他の魚類の皮膚に付着した寄生虫を食べる魚のことで、掃除魚とも呼ばれています。ウミクワガタはよくそうした魚に食べられてしまうのです。だから海底に逃げたと考えられています。また「オスとメスとの出会いのため」という考え方もあります。ずっと魚に寄生しているだけの一生なら、自然と出会いの機会は減るかもしれません。そこで海底の決まった場所に集まるような性質が発達したとも考えられます。 
つまり、彼らは極めてシンプルに生存のため、そして子孫繁栄のためにこのような生き方を選択したということです。

――置かれている状況に対応した結果が、その独特な生態なのですね。では、環境に適応して生き延びているという点で、先生が思う最も「強い」生物を一つ挙げるとしたら何ですか。

難しい質問ですが、一つ挙げるとしたら「フジツボ」でしょうか。ある種のフジツボは潮間帯という満潮時の海岸線と干潮時の海岸線の間に生息しており、低潮時は海水が干上がり陸地となってしまうという環境で生きています。ここは時に夏の日差し、冬の寒さ、そして雨に晒される厳しい環境で、生物にとっては住みにくいでしょう。しかしフジツボは様々な環境の変化にうまく対応しています。海水に浸かっているときは外に足を出し、海水が干上がっているときは殻に閉じこもって難を逃れているのです。

そもそも潮間帯に生息するメリットは「敵がいない」ということです。目まぐるしく変わる環境の中で生きていける生物は少なく、捕食から逃れるためには絶好の場所であると言えます。捕食から逃れられる、という大きなメリットを得るために厳しい環境の中での生存を選択したとも考えられます。これはとても賢いと私は思いますよ。

――大きな利益を得るためにあえて厳しい選択をした、ということですね。ウミクワガタやフジツボなど、厳しい環境に適応し生き延びている生物たちの持つ「強さ」とは、どのような言葉で表せられるものでしょうか。

やっぱり「素直さ」じゃないでしょうか。ウミクワガタはクリーナーフィッシュの捕食から逃れるために、そして出会いのために生態を複雑なものにした。これは単純に目的を達成するための最適な手段を単純に選んだだけなのです。フジツボも捕食から逃れるために潮間帯へと逃げました。彼らは「生きたい」という欲求に素直なのです。その素直さゆえに生き延びることができたといえます。だから、辛いことがあったら素直に逃げるのも有効な手段だと言えるでしょう。

――逃げること、単純にそういった選択をしたからこそ彼らは生き延びることができたのですね。でも、例えば大災害などで生きている環境が壊滅して「逃げる」ことが難しくなってしまったときは、生物はどうするのでしょうか。

それは個体レベルで話すか種のレベルで話すかによって違いがありますね。生物は基本的に種全体の生き残りより、各個体がそれぞれの生き残りだけを考えて行動しています。しかしそれが結果として種全体の生き残りにつながることが多いのです。例えばそれぞれが自分の住める環境を探し、ほとんどがその途中で死んでしまったとしても、生き残りからまた新たに繁栄させていけば種は保たれます。

また、個レベルでは各個体はそれぞれの欲求に素直でいることによって生存を果たしますが、種全体としてみると、ほんのちょっとの遺伝子の変化やちょっとした生き方のバリエーションを持つことで生存を果たすこともあるでしょう。本当にほんのちょっとの変化でいいのです。それが積もり積もって大きな成果を生み出しています。

欲求に対する「素直さ」これが生存の為のカギ

――やはり様々なやり方で危機を逃れていく強さを感じますね。でも人間は日常の中で、辛くても逃げたくないときがあります。辛さの引き換えに、自分の評価があるとか……

生物たちは、常に捕食の危機に晒されているのですから、目的実現に対する最適な手段はほとんどの場合が「逃げる」ことになります。ですが人間はそうではないことはよくありますよね。そういうときは欲求に素直になればいいのです。評価を得たい、などの思いに素直に行動すること。それが辛いことを耐えなければ満たせない欲求だとしても、少し頑張ってみるのも良いのです。でももし頑張れなさそうだったらその時は逃げましょう。生物も生存以外に、交尾をしたいとか縄張りを広げたいとか、そういった欲求のために厳しい選択をすることがあります。でも彼らは極めて単純に、自分の欲求に素直でいることに変わりはありません。

――自分の欲求に素直でいること、でも他人に迷惑が掛かってしまうとか、周りのことを考えると、本当に自分の欲求に素直でいることは難しく感じます。どうすればよいでしょうか。

確かにその通りです。しかし、生物のほとんどはそれぞれ自分のことしか考えていません。それゆえに欲求に素直でいられます。人間も「人にどう思われるか」は大事ですが、一番は「自分が大事」なのです。もし何かしらの行動の結果、他人に多少迷惑が及んでしまうとしても、全ては自分あってのことですから時には割り切りも必要でしょう。そこはお互い様ですから。とにかく、色々やってみればいいんです。ダメだったら他の手段を考えれば良い。深く考えずに、自分が良いと思ったことをする。これを純粋にできるのが生物の強さであり、今の若者が学べる強さなのではないでしょうか。[了]

田中先生の推薦図書

金沢城のヒキガエル-競争なき社会に生きる
平凡社ライブラリー/奥野良之助

本書は著者が研究したヒキガエルについての研究ノートと言えるものです。軽やかで諧謔味にあふれた文章は堅苦しくなく、一般の方にも読みやすくなっています。おおらかでいい加減なヒキガエルの社会と人間の社会とを見比べてみるのも面白いと思います。


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