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もしも富士山が噴火したら?大地の下をめぐるお湯の旅

温泉は海洋や火山などの地殻変動によって生み出された「火山のめぐみ」だ。そのため、今ある温泉のある風景も100年後どうなるかはわからない。もしも富士山が噴火したらどうなるのか? 今回はNHK『ブラタモリ』〈富士山の回〉で案内人を務めた火山学の専門家・小山真人先生(静岡大学)にインタビューしました。

【取材 :川合里香(静岡大学)/取材・文:田代奈都江(静岡大学)】

小山 真人先生

静岡大学 防災総合センター副センター長 兼 教育学部教授(写真:中央)。専門は火山学。伊豆半島ジオパーク構想にも携わる。ブラタモリでは富士山の案内人を務めた。主著「富士山 大自然への道案内」(岩波新書)

火山学的温泉考。重要なのは大地の割れ目と循環系

――温泉特有の地形とマグマの関係を教えてください。

「温泉というと、よく火山の近くにあるというイメージをしますよね。でも実は地下水が豊富で、断層や岩石の隙間など割れ目のある場所であればどこでも温泉は湧きます。温泉って地下から湧き出ているように思えますが、結局は雨水や雪解け水、海水など、地上に存在している水が地上と地下とを循環しているのです。一度、地下に浸み込んだ水が地熱で温められて、また地上に戻ってくる。この循環系があることが温泉が湧く条件の一つですね。

ただ、この地熱は絶対にマグマによるものというわけではありません。確かに火山地帯の温度は高いですし、マグマは地上に熱をもたらす存在です。それによって地下の温度はじわじわと温められています。しかし、地下はもともと温かいので、火山のない場所でも条件が整えば温泉は湧きます。有名な有馬温泉もその例ですね。また、マグマと温泉との関連が絶対ではないことが分かる例として、海岸近くには塩分の高い温泉が湧くことがあります。これは海水が地下に染み込んで温められてから温泉として湧き出ている証拠です。

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――水が地上と地下を行き来した結果が温泉! 本特集では温泉を通して異なる性質のものが結びつけられることを「混浴」と表しています。そうした地下の出来事から考えると、小山先生は温泉を通して私たちは何と接触できると思いますか?

専門的な立場から言うと、温泉からは地下の情報が読み取れます。温泉には地上に湧き出てくる過程で通った地下の成分が溶け込んでいますので、地下に何があるのかは温泉の成分を分析することによって知ることができます。ちなみに、温泉の効能は温泉に含まれる成分が発汗を抑えて体を温めることによるもので、成分の違いによる大きな差はないそうです。

東の熱海、中央の梅ヶ島、西の舘山寺。地形から見る温泉の違い

――静岡県の温泉地は火山の多い熱海・伊東、山間部の梅ヶ島、沿岸に近い舘山寺があります。地形から見る温泉の特徴はどのようなものがありますか?

伊豆半島は火山が多いのでその力で温められて成立した温泉がほとんどです。梅ヶ島とか舘山寺は非火山性の土地にあるので、元からある地熱で暖められた温泉です。火山性かそうでないかという違いはありますが、どの温泉も循環系が成立している「運のいい場所」に存在しています。

また循環系が成立する以外に、標高の高さも温泉に関係します。自然の力で温泉が地下から湧き出るには、標高が低いところでなければなりません。伊豆半島が火山地帯といっても自噴している温泉は沿岸部や谷間に多いです。 逆に、富士山周辺の地下にも温泉はあるけれども、富士山が蓋をしてしまって湧き出さない。須走のように標高の高いところにある温泉は、穴を掘ってポンプで温泉をくみ上げているのですよ。

地震や噴火で温泉が止まる。もしも富士山が噴火したら?

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――全国的にも有名な温泉地・熱海の自噴泉は関東大震災の頃を境に吹き出さなくなってしまったようですが、そのような自然災害、例えばもし富士山が噴火したときどうなるのでしょうか。

地震や噴火は地下の力加減が変化する出来事なので、温泉によっては止まったり、逆に湧き出すところもあります。地下はよくスポンジに水を含ませた状態と似ていると言われています。ちょっと力を加えると染み出したり、また水を含んだりする、とても敏感な状態にあります。例えば北海道の洞爺湖温泉は、明治時代に有珠山が噴火した後に湧いたそうです。ただ、これまでの富士山の噴火で温泉に何か起きたという確かな記録はないです。

地震について言うと関東大震災の頃を境に熱海の自噴泉が止まってしまったのは有名ですね。地震によって断層のひずみが加わったり解放されたりするので温泉への影響が起こりやすいんです。ただ、温泉が止まったとしても一時的で、しばらくすると復帰する場合が多いです。

――火山の噴火で温泉に影響が及ぶことが実際にあったのですね。将来的に富士山が噴火する可能性はありますか?

富士山の詳しい噴火記録は1707年の宝永噴火しか残っておらず、300年以上前のことなので、実際どういう状況になったら噴火するのか、実はよく分かっていません。ただ、21世紀に入って観測網も整っているので噴火の前兆を観測できる見込みが多少あります。宝永噴火の前兆のように非常に多くの地震が起きたりすれば、噴火をさらに的確に予知することも可能かもしれません。マグマは登ってくると地面が膨らみますから、現在は富士山の地面の様子をGPSで観測しています。

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――地形の変化にあわせて、静岡県の温泉の変化もわかるのでしょうか?

恐らく、地震や噴火など相当な力が働かない限りは静岡県の温泉に大きな変化は起きないと思います。静岡県の地下は火山の多い東部が暖かく、中部・西部にかけては比較的地下の温度が低いという特徴があります。これも滅多に変化しないでしょうね。熱海はこれまでと同じように、ずっと温泉街であり続けると思いますよ。

ただし、変化が少ないというのはあくまで自然現象による変化を考えた場合です。例えば地下のトンネル工事など人為的なものは地形や温泉の水脈に大きく影響します。温泉地では地熱発電所を建設することがありますが、温泉にとって地熱発電はやや注意が必要な存在です。地熱発電は火山地帯などの地下の熱が非常に高い場所に水を注入し、人工的に高温の温泉を沸かして、その水蒸気を利用して発電しています。

つまり、地熱発電も温泉も熱源は同じ地熱です。地熱が発電に使われてしまうと湧き出る温泉の温度が下がったり、温泉量も減少、ひどい時には枯渇する場合もあるでしょう。現在では水の代わりにアルコールを使って沸点を低くすることで温泉と共存しながら発電する方法もありますが、普及はまだこれからのようです。温泉ではありませんが、東海道線の丹那トンネルを掘った結果、その土地の地下水が枯渇してしまった事件もありました。自然による温泉への影響よりも、人為的な影響の方がはるかに温泉に深刻な影響をもたらすこともあるのです。
私たちが100年後も今のままの温泉を楽しみたいなら、考えなく温泉を利用するだけではいけません。温泉は地下から湧き出る無限のお湯ではないのです。温泉の循環系を人間の手で止めないよう、自然に寄り添った活用をしていくべきですね ♨︎

「うさはかせ」という愛称で親しまれている先生のTwitterは、火山学から旬の映画の話題まで幅広い内容で更新される。

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この記事は静岡時代44号「混浴都市、静岡。」に掲載されています。
「温泉」から眺めた新しい静岡学。大学生のうちに行きたい静岡温泉マップ付き!
県内のすべての大学・一部の高校にて配布・設置しています。


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