伊東小涌園に聞いた温泉120%活用術
無防備な状態で他者と接触する、温泉という特殊な場所。今回は、温泉ソムリエの川井誠さん(伊東小涌園)に、恥をかかない正しいマナーと知ってお得なテクニックを聞いてみた。インタビューのおわりには、これからの温泉ライフにぜひ活用してほしい、「温泉入浴10ヶ条」もご紹介!
【取材/川合里香(静岡大学)|取材・文/河田弥歩(静岡大学)】
川井 誠(かわいまこと)さん
伊東小涌園の総務課施設担当者で星二つの温泉ソムリエ(写真:中央)。温泉内部の人が温泉についてきちんと説明できるようにしたいと思い、資格を取ったそう。趣味は鉄道と温泉巡り。
伊東小涌園
日本三大温泉の一つ、伊東温泉。伊東小涌園の温泉は古い角質を溶かす美肌の湯。足元の照明などに静岡の工芸品を取り入れ、上品で特別な空間を提供。
http://www.ito-kowakien.com/
温泉マナーは温泉で聞け!温泉マークに隠された究極の入浴法
――温泉に入るときはどのようなことを気にしているんですか?
「騒がない」「暴れない」「独占しない」、基本的なことは公衆道徳と一緒です。カラン(蛇口)やシャワー、桶は共通のものなので独占しない。僕も子どもの頃は銭湯に行っていたんですが、「いつまでもカランを使っているんじゃないよ! 」と怖いおじいさんに怒られたことがありましたね。今は家庭でお風呂に入ることが当たり前になって銭湯や公衆浴場に行かなくなったし、核家族化も進んでいます。年配者の知恵を知る機会というのは少なくなっていますね。温泉マナーや温泉を効果的に楽しむための知恵は昔の人の経験からくるものがほとんどなんですよ。
――温泉を最大限楽しむ方法とは?
温泉の理想的な入り方は、みなさんもよく知っている温泉マークの湯気に表現されているんです。湯気の部分をよく見ると右が一番短く、次が左、真ん中は一番長いですよね。これは左から5分、7分、3分と入浴時間を表しており、間に概ね10分の休憩を入れるという入浴形式を表しています。
また、お湯の成分を取り込みやすい状態をつくってから温泉につかることも効果的です。例えばかけ湯で体を温めて毛穴を開いて吸収しやすくするとか、温泉から上がる時は、タオルで体を叩くように拭くとか。天然温泉の所は最後のシャワーも浴びないのが理想ですね。きちんと流して拭かないと衛生上心配に思われるかもしれませんが、掃除の際にしっかり殺菌消毒をして毎日お湯を張り替えているところであればお湯自体を殺菌する必要はないんです。ただ、硫黄や鉄分が強い温泉では最後にシャワーで流した方が肌に良い場合もあります。温泉によって入り方を変えると良いですね。特に美を求めて温泉に来る女性にはぜひ知っていただきたい温泉知識です。
身分も男女も脱ぎ捨てて。銭湯の歴史は混浴からはじまる
――温泉に求めているものは男女で差があるのでしょうか?
昔、温泉は男性が遊んで疲れを癒す、男性向けの場所でした。伊東温泉も歓楽温泉として栄え、芸者遊びに興じる人が多かったようです。温泉街は二重の意味で癒しを得られる場所だったのでしょうね。伊東では昭和30年代までは風俗街があり、現在の街並みの中にも名残が見られます。歴史が深く日本一の温泉街と言われる別府温泉にもストリップ小屋が現役で残っているんですよ。
現代に入って男女の力関係が等しくなってから、温泉側はこれまでターゲットとしていなかった女性にも目を向けるようになり「美人の湯」と言った宣伝が生まれました。
――違うものを求めている男女が無防備な状態で一緒に温泉につかる、混浴温泉にはどのような性質があるのでしょうか?
混浴は銭湯ができた江戸時代からの文化です。それまでは体を拭く程度だったのが湯につかるようになりました。当時はもちろん家庭にお風呂なんてないから、みんな銭湯に行っていました。そこは脱衣場は別だけども、中では男女一緒。浴場の中で異性を変な目で見るというのは少なく、武士でも平民でも、男女さえ銭湯の中では皆平等だったんです。身分が見えない形だから平等になれる。武士が町娘を見初めるなんてこともあったようです。しかしその後、ペリー来航によって混浴という日本の文化はおかしい、不埒だと否定され、明治になると男女で別れる温泉が主流になりました。
温泉にまつわる近年の変化といえば、町中にあるスーパー銭湯って洗い場に仕切りがありますよね? あれは銭湯が公共の場ではなく個人の延長線になっているということなんです。これから更に個人化が進んだら、温泉を楽しむための公共マナーはますます廃れていくでしょう。温泉について少しだけ深く正しい知識をつけることで温泉を100パーセント、それ以上に楽しんでいただけたらと思います♨︎
▷ 伊東小涌園に聞いた!「温泉入浴10ヶ条」
1、入浴前にカロリー補給
空腹での入浴は貧血を起こしやすいため、カロリーを補給してから入浴してください。客室にあるお茶やお菓子は実はそのため!
2、入浴前後に水分補給
入浴の10分から20分前、入浴の10分後を目安に1~2杯の水を飲みましょう。特に入浴後の水分補給は血行をよくする効果があります。
3、浴場入口で全身へかけ湯
かけ湯は心臓発作や脳卒中を防ぎます。心臓から遠い部位から首の順(両足→太もも→腰→胸→肩→首)に最低5回かけ湯をしましょう。
4、温泉につかる前に体を洗う
温泉には角質や毛穴の汚れをとる効果があります。体を軽く洗ってから温泉につかると温泉の成分をより吸収できます。
5、湯口の反対側から湯口側へ
お湯が注いでいる湯口は温度が高く、体に負担が。温泉につかる際は温度が低くお湯がまろやかな湯口の反対側からゆっくり入ると◎
6、入浴中はタオルを頭にのせる
暑い時にのぼせた場合は冷たいタオルを、寒い時に立ちくらみがする場合は熱いタオルを頭にのせると効果的です。
7、内風呂に入ってから露天風呂
気温が低い時にいきなり露天風呂に出ると血圧が上昇する場合が。まずは内風呂で十分に体を温めて。
8、1回の入浴は5分程度に
長湯は体に負担がかかります。「1回約5分の入浴↓3~5分の休憩↓再度入浴」を体調に合わせて3回ほど繰り返すと良いです。
9、湯上りのシャワーはNG
入浴後約3時間ほど皮膚から温泉効果が浸透し続けます。湯上りにシャワーを浴びるとその効果が洗い流されてしまいます
10、入浴後は30分~1時間の休憩
汗やほてりが自然に引くまでに水などを飲んでゆっくり過ごしましょう。この時間に温泉成分が浸透します。
この記事は静岡時代44号「混浴都市、静岡。」に掲載されています。
「温泉」から眺めた新しい静岡学。大学生のうちに行きたい静岡温泉マップ付き!
県内のすべての大学・一部の高校にて配布・設置しています。