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2018-05-29

ここは隠れジャズの地「静岡」。大人の世界を垣間見よう①

樋口慶彦さん(静岡大学ジャズサークル「SSH」バンドマスター)と考えるジャジーな世界の捉え方

――大学生になってからジャズを始めた理由と、その魅力を教えてください。

 自分は中高ソフトテニス部で、もうスポーツはいいかなと思い大学では文化系のサークルに入ろうかと思ってた。あと大学生は自由で何でもできるって聞いていたので、何か全く関係のないことをしようという気持ちもあった。和楽器とか良いななんて思っていたんだけど、入学式のサークル紹介でジャズサークル「SSH」の演奏を聴いて、そのとき「着てる黒い服かっこいい、吹いてる曲めっちゃかっこいい、もうかっこいい! 」って衝撃を受けて。ただただかっけー、みたいな。あとはもう勢いでサークルに入りました。活動を始めてからはジャズに見事にハマった。とにかくのめり込んだ。大学生って高校を卒業して、大人になる手前くらいの時期だよね。当時はジャズ=大人みたいなイメージがあって、ジャズやってると「俺大人の階段上がってんじゃね? 」みたいな感じになれた。ここもジャズの魅力だと思う。今はそのイメージは全然変わったんだけどね、もう生活の一部みたいになっちゃって。別に背伸びしなくても手の届く場所にあるっていうか、当たり前にあるものになりました。あと調べれば調べるほどジャズって年齢層が広くて、小さな子供から死にかけの人まで楽しめる音楽だってのも分かったし。
 でもとにかく「かっこいい」っていうのが僕の最初のジャズに対するイメージで、ジャズの大きな魅力なんだと思う。

——ジャズに対するイメージが変わってきたんですね。ところで、樋口さんの口癖で「ジャジー」というものがあるとお聞きしました。「ジャズ音楽を思わせるさま、ジャズ風のもの」というような意味があるそうですが、例えばどういったものがジャジーなのでしょうか。

 お酒飲んで、タバコ吸ってたらもうジャジーです。あと最近は、パスタ作ってるとジャジーだわって思う。よくパスタ作るけど、あまり材料がないときもあって、そんな時はとりあえずベースとして玉ねぎ刻んで、オリーブオイルを入れて炒める。その後、今日はどうしようかと考えて、お茶漬けの素入れたりだしの素入れたり、その場で創作して作ってる。アドリブ力あるなって思った。
 アドリブ力は、インターンでも役立つよ。アイスブレイクで初対面の人と話すときに、その人の趣味とかに話を合わせて歩み寄る感じはジャズから学んだかも。
 ジャジーって生活の中でふと訪れるものな気がする。ジャズは日本の音楽じゃない、だから日本語で表せないものを俺はジャジーって呼んでいるのかなって。言っちゃえば卍みたいなものだよね(笑)。特に意味はないけど、その時の感情をシェアする手段としてまじジャジーって言っちゃう。生活の中にジャズが滲み出てしまう、この気持ちを表せるのがジャジーって言葉だと思う。

——ジャジー、深いですね……。やっぱりジャズを知っているもの同士、ジャズ仲間との会話や関係と、そうでない人との会話や関わり合いっていうのは違ってくるんでしょうか。

 それは結構違うところがあって、例えば高校の友達と話すときは近況報告とかくだらない話とかをしてる。でもジャズをやっている人と話すときは、ほとんど話題の中心がジャズ。すごい偏見だけど、ジャズやってる人っていかに知識を持っているかを語り合う感じがあるんだよ。まさに知は力なり的なところがあるからさ、会話の裏に隠れた勝負をしている感じ。でもジャズ始めた当初はやっぱり知識量も少なくて、周りの先輩との差を埋めるためいろいろ調べたり聞きまくったりしたわけで、その結果今何が流行ってるとか、世間のことが分かんなくなっちゃった(笑)。それだけジャズに魅力を感じたってことなんだけどね。
 それから、ジャズには言葉で話さなくても相手を知られる力があると思う。サークルに思想が強すぎて話しても会話が成り立たないレベルの変な人が居て、そんな彼と一年生の時に一緒に組んで曲をやったんだけどその時に、こいつはここで盛り上げてくるんだ、じゃあ俺はここで盛り上げよう! みたいに初めて彼のことを知れたような感覚があった。一年生でジャズをよく知らなかった中でも、分かることはあった。

——こちらの想像として、ジャズは人と繋がれる、人と人の殻を溶かす音楽じゃないかって思うんです。演奏しながらじゅわじゅわっと、互いに溶かしあうような……。樋口さんはどう思いますか?

 殻を破るっていう言葉はよく聞くけど、殻を「溶かす」か。それジャジーな表現だね。
 自分の殻を破る、だと例えば新しいフレーズを思いついた時とかはそんな感じある。でも、セッションでは自分を表現することによって、周りのメンバーに対する自分の殻を溶かしていくんじゃないかと思う。そしてお互いの殻を溶かしあって一つに集まっていく感覚がある。即興で知らない人とセッションしてても、相手が盛り上げてく場所とか、コードの持って行き方とかでなんとなくその人が分かってくるんだよね。そして相手も自分のことを分かってきて、演奏を重ねて段々と近づいていく。
 ある意味でジャズでは人は嘘をつけないみたいなとこあるよね。演奏とか、好きな曲を見ればその人が何となく分かっちゃうわけだから。隠しようもなく自分がさらけ出されちゃう。こういうとこもジャズが殻を溶かす要因になってるのかな。
 あと静岡にはジャズバーが結構あって、俺もたまに行くんだけど。そこでただ飲むんじゃなくてジャズの持つ力で「うぇーい」ってなることで全然知らない誰かと、年齢の壁なんか軽く超えてもっと仲良くなれるってことも実際ある。それぞれ全く違う人たちみんながひとつになるっていうのは、みんなの殻が溶けたからなのかも。ジャズって不思議な力があるよなあ。

樋口慶彦さん
静岡大学人文社会科学部経済学科、静岡大学のジャズサークル「SSH」に所属。担当はトロンボーンで、バンドマスターも務めていた。最近はインスタに創作パスタの写真を投稿することが趣味。

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Blue Train (blue note) John Coltrane
サックス奏者のジョン・コルトレーンが一九五七年にレーベル「ブルーノート」から発表したアルバム。使われる楽器ひとつひとつが際立ちながらも見事な調和がとれた楽曲たちは、発表から六十年以上経った今でもファンの心を鷲掴みにする。二曲目「moment’s notice」の弓で弾くベースソロは必聴で、初心者でもジャズの渋さに触れられる一枚。

構成・森下華菜(静岡大学教育学部)鈴木聖生・文(静岡大学人文社会科学部)峰松美祈・写真(静岡大学農学部)

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