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2017-12-11

社会課題に対する膨大な対話を編集〜静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNE

何か解決したい、多様な属性の人の意見を聞きたい、そんな人が依頼を寄せる、20代でNPO法人を立ち上げた先輩がいます。静岡県内の行政、教育機関や民間団体などが、地域・社会・自社事業に関する課題解決に向け、組織外の目線からの率直な意見やアイデアを求める際に、多様な人々を集め、議論の場をつくっているのが、静岡大学理学部出身の天野浩史さん(26歳)です。現在自身のNPO法人でどのような事業を行なっているのか、普段の仕事内容や大変な点、やりがいについて聞きました。

NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNE

「誰もが自分たちの手で課題に取り組み、そのチャレンジをみんなで応援し合える社会」を団体のビジョンに据え、2013年設立。主な活動として、県内のフューチャーセンター運営支援、行政・企業・NPO・大学と連携した場づくりを展開している。

■ 事務所

〒420-0882

静岡市葵区安東1丁目21番37号

始まりはフューチャーセンター。話し合いの場を広げる仕事

地域や社会の問題はどんどん複雑化し、1つのコミュニティだけで解決することが難しくなっている近年。立場や肩書を超えた参加者が社会的課題を解決する方法を考える“場”としてフューチャーセンターが注目されています。欧米が発祥の概念ですが日本でも全国で広がり続け、静岡で現在常設されているフューチャーセンターは11カ所。「自然発生し、独立した“場”となっているフューチャーセンターを繋ぐことで、相乗効果を生み出せないだろうか」。2013年、静大フューチャーセンターで活動をしていた天野浩史さんが大学4年生の時に友人と二人で設立したのが、NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNEです。

ESUNEは行政や企業など様々なセクターと協働した場づくり、フューチャーセンター運営者の連携会議、新しいフューチャーセンターの立ち上げ支援を行っています。ESUNEのはじまりであるフューチャーセンターが大切にしていることは3つあります。あらゆる立場の人を呼び集めてできる「多様性」、つくりたい未来から遡って考える「未来志向」、立場の違いを理解し相手の意見を尊重する「対話」。現在はそこから、未来志向の対話「フューチャーセッション」を軸にしたワークショップの企画運営、対話についての手法を学んで実践するDialogSchool(ダイアログスクール)の運営と、事業の幅を広げています

NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNE代表 天野浩史さん

未来志向の対話をプロデュースする。対話で触れる多様性が一人の行動を、社会を変える!

ESUNE代表理事を務める天野さんの仕事としてメインになってきているのは、場づくりの企画運営。行政や大学、企業の「こんな場をつくりたい」という依頼に対し、全体の企画を考え、人を集め、当日はファシリテーターとして話し合いの場を作ります。最近では静岡市役所の新人職員約120人に市民協働について考えてもらうためのワークショップで講師をしたそうです。

ワークショップというと「何か一つの結論に合意形成していきましょう」という形は多いのですが、フューチャーセンターは違います。「多様な人がいる中で一つだけではなくなるべく多くの未来を作り出し、参加者がどんな気付きを得るか」に重点が置かれます。今まで社会問題について意識をしたことがなかった人にとっても、「自分事」として感じてもらえるように、「自分とその問題はどう関わっているか」に気づいてもらいたいからです。

ワークショップでは参加者から意見を集め、社会と自分たちの関わり方や課題を対話によって見つめ直していきます

多様な人がいる中で多くの未来を作り出すためには、まず多様な意見を受け止めることが大切です。しかし、全く違う価値観を持った人を拒絶せず、実現できる方法をプラスして意見することができる人は少ないのが現状です。

「日常では多くの人が異なる意見に出会うと、耳をふさいだり遠ざけたりするけれど、異質なものとの出会いから新しい発見や創発が生まれる。また、世の中には表に出ない悩みや経緯を持っている人は多い。表だけで評価をせず、奥底を理解する優しさを持てる人を、増やすための場でもある」と天野さんは語ります。

ワークショップの仕事は多い時で週に4本、ダイアログスクールには毎回20人ほど人が集まるそうですが、なんとプロモーションは簡素なHPとFacebookでの告知のみ。依頼は人づてがほとんどで、営業は一度もしたことがないそうです。それでも仕事が集まるのは、20代中心で学生も参加する場をつくれるということも含め、天野さんの人柄と学生時代から築いてきた繋がりが大きいようです。

県内フューチャーセンター運営支援で開いた「ディレクターズ・ミーティング」の様子

「よそ者」が挑む、地域づくり

ESUNEの顔である天野さんは「フューチャーセンターの天野さん」「静大の天野さん」「静岡の天野さん」と呼ばれることが多くなってきたそうですが、実はお隣の愛知県出身。地元愛知での就職を考えたこともあったようです。進路に迷っていた天野さんの背中を押したのは、恩師が学食でぽろっと口にしたこの言葉。

「確かに東京に行ってバリバリ働くという選択肢もある。地元に戻って働くという選択肢もある。そして大学生活で培ったネットワークや繋がりを活かして働くこともできる」

講演でこんなことを言ったという話だったのだが、自分に向けて言われたように感じたそう。なぜ静岡で地域づくりに取り組もうと決意したのか。地元とは全く違う世界の静岡が新鮮だったから、色んな産業や自然のある静岡に可能性を感じたから、大学生活でかかわった人たちに恩返しがしたかったから、と沢山の理由を教えてくれました。

やはり地域づくりと言う仕事柄、「なぜ地元で同じことをやらないのかとよく聞かれる」と天野さん。続く「静岡にとって僕は永遠のよそ者だから」という答えは自虐的にも聞こえますが、その答えに迷いはなく、顔は晴れやかです。その地で生きてきた人と、外の人、それぞれできることが違うのだと言います。その地で生きてきた人だからこそ見えてきた歴史や変化、住民との関係性と、そこから生まれる物語性がある一方で、よそ者だからこそ持てる、しがらみにとらわれない客観的な視点や発想があるそうです。

静岡に愛着を持ちながらよそ者で居続けようとするそのストイックな姿勢が、静岡の各地で熱い対話の場を生み出しています。

天野 浩史さん

愛知県岡崎市生まれ。「NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNE」代表理事。ほか、棚田の環境保全を目的として設立した、NPO法人せんがまち棚田倶楽部の事務局次長を務めるなど、活動は多岐にわたる。

このページは、文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の採択を受けた「静大発”ふじのくに”創生プラン」(http://www.cocplus.shizuoka.ac.jp/)の協賛により、掲載しております。


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