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2017-03-09

工場の働き方を変える!〜ねじガールの挑戦|働く私の静岡時代

清水区興津に本社を構える総合ねじ部品メーカーの興津螺旋。ステンレスねじで国内トップシェアを誇る興津螺旋の製造現場には、“ねじガール”と呼ばれる女性社員が働いています。「男性の職場」というイメージの強い製造会社では異例の女性従業員の多さ。そんな男女ともに活躍の場がある興津螺旋の現場をのぞくと、コンマ何mmの世界でねじの美しさ・精度を決める「手仕事」が見えてきました。

興津螺旋

〒424-0204
静岡県静岡市清水区興津中町1424
http://www.okitsurasen.co.jp/

興津螺旋:工場外観

静岡版『下町ロケット』!ものづくり・日本が誇る技術力

JR興津駅から徒歩15分、住宅地が密集した先にある町工場で、国内トップの技術を誇るねじが製造されています。1939年に創業した興津螺旋の現在の主力商品は「ステンレスねじ」。錆に強く、磁石の影響を受けにくいため、キッチンやバス・トイレ、太陽光発電など水・雨の影響を受けやすいものから、コンピュータのハードディスクなど精密機器にまで使われています。

一般的に「ねじ」はまず針金のようになっている材料をカットし、金型で圧し付けてリベット(ねじの頭の部分)を成型(圧造)。軸の部分は細かい溝がはいった平らな金型の間にリベット挟み、擦り合わせて螺旋状の凸凹をつくっていきます(転造)。興津螺旋ではさらに見た目にもこだわり、独自の洗浄機で研磨することでステンレス本来の輝きを保っています。

同社がトップシェアであり続ける理由は顧客に安心を与えるその「技術力」。2000年代初頭からはステンレスねじよりも強度が強く、しかも軽いチタン合金や、ニッケル合金などのレアメタル製品の加工に着目し、いち早く開発に着手。メーカーによっては圧造できず切削加工に頼るところ、興津螺旋では圧造加工でねじを作ります。時代を読み、他者にできない技術を追求する姿勢も、その技術力もまさに一流です。

工場勤務のイメージが変わる?ねじガールの誕生!

興津螺旋がすごいのは技術だけではありません。実は、従業員の男女比をみると男性よりも女性の方が多いんです。なかでも、製造現場で働く女性は「ねじガール」と呼ばれ、ねじ業界に限らず、工場勤務のイメージを変える例として注目を集めています。
「ねじガール」のはじまりは2012年。当時、事務職で採用された女性社員・佐野瑠美さんが研修を機に、「わたしもねじを作りたい」と申し出たことがきっかけです。佐野さん自身は外国語学部を卒業したザ・文系女子。当時、女性の比率が全体の3割で、女性でも働ける現場をつくる必要性を感じていた会社側としても思いがけない好機でした。

男女の筋力や体格の差を補うような設備や安全性への意識も高まり、佐野さんをモデルにした「女性も働ける現場づくり」は、同時に男性にとっても働きやすい現場づくりにつながっていきました。現在はねじ製造現場で働く27名中12名が女性で、内10名が「ねじガール」として働いています。

静岡大学人文社会科学部経済学科を卒業し、今年入社3年目を迎える林ありささんもその一人です。静岡市出身で、家族が製造現場で働いていたことから、ものづくりに興味を抱き、就職活動のときに興津螺旋の会社説明会へ。ねじガールの存在を知り、「女性でもものづくりができる会社なんだ」と興味が一層増したそう。これまで「きつい・汚い・危険」と言われてきた職場が、この5年余りで着実に変わってきています。

ねじガールの林ありささん(写真:右)

新米から中堅へ。ねじガール・林さんの挑戦

今は1日に20万本ものねじを製造しているという林さん。春には入社3年目を迎えますが、「仕事は手になじんできましたか?」という質問には「いいえ」という答えをいただきました。ねじづくりは、ステンレスやチタン合金など、素材の特性によって必要になる技術や知識は変わります。そのため試行錯誤の繰り返しで、ゴールがある仕事ではないという林さんの思いによる答えでした。

林さんが担当しているのはヘッダーと呼ばれるねじの頭の部分を作る設備。機械化もされているので、正しくセッティングすればその形状になって出てきますが、同じ機械・同じ素材を使っても出来上がりは人によって全く違ってくるそう。特に難しいのは金型の調整。本来きれいな円になるはずのねじ頭部が楕円になってしまったり、円の中心のねじ穴がコンマ何mmずれてしまったり。基本的な作業方法はマニュアルに載っていますが、言葉では表現できない感性ばかりはマニュアル化できません。工具の加工や交換、微修正は個人が行っています。

 「1年前、軸の太さが2mm、軸の長さが3mmというとても小さなねじを作ることがありました。爪を使わないと持てないくらい、細いだけでなく短くて、さらに頭部が大きいため、作るのがとても難しかったです。でも私自身小柄なので、できたときは余計にこの小さなねじに愛着が湧きましたね」と、ねじづくりの難しさと面白さを教えてくれました。

もう一度『選ばれる会社』へ

ステンレスねじ業界で国内トップを走り続ける興津螺旋。しかし、会社としては違う方向へ存在価値・付加価値をつけようとしているそうです。それは現在トップシェアであるステンレスねじに代わるもの。 誰でもつくれる製品では、より安い労働力を求めて仕事が海外へ流れてしまいます。大量生産・大量消費のビジネスはもう終わり。高度な技術力を要する加工や短期間での納品など、「他社ができないねじを作ろう」と動き始めています。

その一つが軽量・高剛性・高耐食性が求められる分野で必要とされるであろう「チタン合金」の加工です。高強度で加工難易度が高い素材を圧造加工する技術を持っているのは興津螺旋を含め全国でも数社ほど。興津螺旋でチタン合金の加工をできる人は、現場で働いている人のうち2~3人で、ねじガールでは佐野さんだけだそうです。

「先輩方は本当にみんなすごいので尊敬しています。チタン合金はきれいに成型するのが難しいらしく、他のねじと同じ設備を使っても違うアプローチが必要なんだそうです。先輩方もみんな最初は辛そうでした(笑)。わたしも早く技術力を高めて、知識を増やして、いろんなねじを扱えるようになりたいです」と林さん。従来のねじ、従来の工場の働き方……。興津螺旋は固定観念というものを次々と変えていきます。学部性別不問!美しく、世界に通用するねじづくりへの門戸は広く開かれています!

[取材・文|静岡大学 人文社会科学部 加藤佑里子]


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