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2019-04-12

「大学で学ぶって高校までと何が違うの?・1」山本好比古先生(静岡大学大学教育センター)に訊いてみた

中学から、今や小学生も習うくらい誰しも英語とは長い付き合い。これまでも親しみのある学問は、大学で学ぶとどんな発見があるんだろう。教科書だけじゃ学びきれない大学の学びについて教えて、先生!

山本先生 僕は日本の大学を出ていません。大学はニュージーランドで、大学院はオーストラリアでした。だから必然的に英語が必要な環境だったんです。そこではジェンダーや会話研究といった社会言語学と、英語教授法を並行して学び、大学の教員を目指すようになったのはニュージーランドにいた時です。日本とニュージーランドでは勉強方法が全然違って、日本では先生の板書をノートで覚えて、テストをするパターンが主流だけど、ニュージーランドの勉強方法はレポートとディスカッションがほとんどで、最初はすごく苦しみました。そんな中、当時たった一人の留学生だった僕を気にかけてくれた先生が、とてもフレンドリーで教え方も上手くて。その辺りから自分も大学で英語を教えたいと興味を持ち始めました。

──英語を学んでいくなかで手に入れたものはありますか?

山本先生 英語ができるようになって視野が広がりました。英語って、まず自分の言いたいこと言った後に理由であったり他の情報を話すでしょ? 英語のレポート書くときも同じで「自分の主張はこうです。その理由は~」というような構造だよね。文法で見ても、英語は主語と動詞が文頭に来て、他の情報は後回し。でも日本語は逆で、最後まで聞かないと伝えたいことが分からない。バーッって先に言いたいことを言える英語に比べて、日本語は言いたいことを、なかなかまっすぐに言えない構造になっている。もしかしたらそれが視野を狭くしていることに繋がっているかもしれない。たとえば「仕事って何のためにするの?」って日本人に聞くと「やりがいがあるから」と答える人が多いよね。そういう人はまず生活の軸として仕事を置いている。でもオーストラリア人やニュージーランド人はそこまで考えてなくて、同じ質問をすると、一〇〇パーセント「家族を養うため」「お金を稼ぐため」と言うんです。仕事ではなく、プライベートを中心に考えている。だから、彼らは週明けの月曜日に職場でまずお互いに「How was your weekend?(週末はどうだった?)」と聞いて、そこでもし答えに詰まると、あなたは何のために生きてるの? というような空気が流れちゃうくらいなんです。でも日本人はまず公私を分ける雰囲気があるからそういうことは聞かないし、仕事に対して「お金を稼ぐため」とは言いづらい。それが良い悪いは別にして、こういう視点もあるんだっていうのを知ることができた。だから英語を勉強することで、少し大きく物事を捉えられるようになった気がします。

──英語を入り口に考え方の幅も広がったんですね。今度は英語の学習についてですが、同じ英語学習でも高校までと、大学では大きく変わったような気がします。実際にはどういった部分が違うのでしょうか?

山本先生 一番の違いは、高校までは知識を詰め込む勉強で、大学ではその詰め込んだ知識を使って自分の意見を吐き出すことまでが求められるということ。その上で、書籍や論文を引用して自分の意見のサポートをしていく。これができるようになると、それはもう「勉強」ではなくて「学問」になります。私がいつも授業で最初に言うのは「中学、高校までの英語ができていれば全く問題ない」ということです。海外ドラマとかネイティブの日常会話を聞くと気がつくと思うんだけど、彼らが使ってる動詞ってほとんどが中学レベルの動詞なんです。それなのに学生が会話をなかなかできない理由は二つあって、一つは名詞が莫大に多いこと、もう一つは英語を話す機会が少なくて単純に慣れていないということ。だから自分の授業では実践を意識して、PBLと呼ばれるメソッドを取り入れています。PBLとは、Project Based Learningのことで、音楽やスポーツなど、自分の興味のあることを一学期かけて調べ英語でまとめ、最後の授業でプレゼンをしてもらうという内容の勉強方法です。この授業で大事なのが、広がりのあるトピックを選ぶということ。例えば、イチローをトピックにしたいとき「なぜイチローは足が速いのか」というテーマにしたら、筋肉とか練習方法の話に広がっていくから、科学的になるし面白い。でも単に「イチロー」というテーマにしちゃうと「イチローが何年に生まれて、いつ野球を始めて」っていうウィキペディア的なまとめになっちゃうよね。これは高校までの「勉強」であって大学からの「学問」に発展しないから、そこは気を付けて選択してもらっています。

──テキストを使わない学習はまさに実践的ですね。私たちは毎日大学に通って授業を受けながら、時々これは無駄なんじゃないか、と思ってしまうときがあります。大学での学びの価値に気がつくのはいつなのでしょう。

山本先生 価値はもちろんあるけどそれに気がつくのは卒業した後かもしれません。学んでいることが自分にとってプラスになるって学生時代は多分実感できないと思う。でも大学に行こうとしている人、今通っている人は、もう一度「自分はなぜ大学に行くのか」を考えてみてほしい。海外では仕事をしてからあとで大学に入り直す人がすごく多いくらい勉強に真摯に向き合ってる人がほとんどです。日本では今の体制でそれをすることはなかなか難しいけど、せっかく大学に通うなら近くにいる先生を最大限に頼って、学びたいと思ったことをとことん学んでほしいと思います。それと私は大学時代の恩師に言われた「自分の決断というのは十年後、二十年後に必ずポジティブになって返ってくる」という言葉が今も胸に残っています。私は大学受験で第一志望の日本の大学に入れなくて当時はとても落ち込んだけど、もし受かってその大学に行っていたら、留学はしてなかっただろうし今の英語力もない。だから自分の決断を信じていれば、必ずいい結果として自分に返ってくるというのは本当だと思います。失敗を恐れず、あなたの学びを深めていってください。

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山本好比古先生
静岡大学大学教育センター所属。研究分野は応用言語学と社会言語学。全学教育科目で英語教員を担当している。プレゼンテーションやフィールドワークを交えた授業が特徴的であり、新聞などのメディアにもその様子が紹介されている。

今回のお話をもっと深めるおすすめ本『オーシャントラウトと塩昆布』和久田哲也・著(PHP新書)
静岡出身の著者・和久田は、各国で称賛される世界三大シェフ。そんな著者がオーストラリアに渡り、自身の店を予約のなかなか取れない人気店に育て上げるストーリー。表題の「オーシャントラウトと塩昆布」は、メディアで一番多く取りあげられた人気の一品だ。自分の進路に悩む学生にとって、分野は違くとも、きっと背中を押してくれる一冊になるはず。

澤口翔斗・文(静岡大学人文社会科学部二年)
唐坂梨紗子・写真(静岡大学地域創造学環 三年)

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