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卒論の天敵「誘惑」の本質とは?

卒論は持久戦である。にも関わらず、飲み会だ、卒業旅行だ、人生最後の夏休みだなどと誘惑は至る所に転がっている。私はこの先どのように戦い抜けばいいのだろう?モチベーションの研究をされている静岡理工科大学の今野先生に訊く、誘惑との付き合い方。

(静岡時代36号/巻頭特集『伝説の卒業論文』より)


誘惑ではなく選択? 私は自律性を求めてる

ーー私たちは卒論や卒制に取り組むにあたり、常に誘惑と隣り合わせです。そもそも誘惑とはどのような存在なのでしょうか?

ここでの「誘惑」は、卒論をやらなければならないのにゲームをやってしまったり、勉強しなければならないのに飲み会に行ってしまったり、というときのゲームや飲み会のことですよね。これまで心理学を研究してきた私の視点でいうと、それらは誘惑ではなく、その時々の「選択」だと思います。誘惑にかられるというよりは、「卒論や勉強をやりたくないからゲームをやろう!」みたいな感覚ですね。

おそらく皆さんは物事をするにあたって、自律性を求めているのではないでしょうか?その自律性が阻害されているから、誘惑にかられていると思い悩んでしまうと思うんです。ですから、人はいかにして自律的になれるのか、について考えてみましょう。私はいま、教育心理学の観点からモチベーションを研究しています。その理論では、行動に対して内発的に動機づけすることができれば、人は自律的になれると考えられています。内発的動機づけとは、行動そのものが自分の行動の理由になっていることを指します。たとえば、趣味はなんですか?それをなぜしますか?

ーー読書です。本を読みたいからです。

そうですよね。つまり、読書をする理由は読書が好きだから、本を読みたいから。読書をすることに意味があり、それが理由になって行動しているんです。このような動機を「内発的動機づけ」といいます。一方で「外発的動機づけ」もあります。動機そのものは人間の行動にはないケースです。では、なぜ勉強しますか?

ーーうーん……。将来のためです。

そう。勉強をすること自体が理由ではなくて、勉強して得られる将来、これこそが行動の理由になっています。これが「外発的動機づけ」です。長い目で見れば卒論や卒制も内発的動機づけで取り組むことが理想型ですよね。心理学でいうと、人間はより楽しいもの、興味のあるもの、好奇心の向くものに目がいくので、基本的には内発的に動機づけられた行動をとるようになっています。誘惑に負けて行動が阻害されるというよりは、より楽しい方、より欲求が湧く方を選択しているんです。これが人間の本来もっている心情で、誘惑のメカニズムだと思います。

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卒論・卒制の理想型は、動機を「好き」に置くこと

ーー卒論・卒制の理想型は動機を自分の「好き」に置くことなんですね。とはいえ、実際なにをしたらいいか分からない人も多いと思います。さらに卒論は長い時間をかけて取り組む持久戦。卒論に対するモチベーションを上げるにはどうしたらいいでしょうか?モチベーションを上げ下げする卒論ならではの心理的要因はありますか?

本来、卒論・卒制は大学4年間の研究の集大成です。みんな、卒論に対しては「やらなきゃいけない」という気持ちを持っていると思います。今、静岡県だけでなく全国的に見ても大学進学率は約51%と高いのですが、中には大学に来たけど何かをしたいわけじゃない、という人もいると思います。そうした風潮から、卒論の位置づけが曖昧になっていると思います。卒論でやりたいことがわからない、何をしたらいいかわからないなど、やりたいと思っていても出来ない人も多いですよね。卒論で何をやるのか、テーマを決めることが実は一番難しいものです。入りたい研究室に入っても、先生に興味はあるけど学問には興味がない学生も今は多いでしょうし。

そうした卒論事情のなかでモチベーションをあげるには、卒論・卒制を自分自身の内発的動機づけに結びつけていくことです。つまり、卒論自体を楽しくすること。卒論のテーマを興味のあるものにしたり、友達と勉強会を開いてみたりするとかね。人間が自律的になれない理由は、「やらなきゃいけないことが楽しくない」とか「自分は何をしたいのかわからない」というところにあるんです。やることや目標が明確で、自己効力感(自信)さえあれば人は動くんです。みなさんも日常の生活の中で思い当たる節があるはずですよ。また、小刻みに自分ができる範囲の目標を立てることも大切です。短いゴールですね。大きなゴールが1つあるより、短いゴールがたくさんあるほうが人は頑張れるんです。

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ーーちなみに、今野先生は卒論にどのように取り組まれたのでしょうか。

私の卒論は大失敗でしたね。実は大学4年生の時に大恋愛をしてしまいまして、好きな子に気をとられてしまったんです。彼女とお付き合いしたくて頑張っている間に、他にも大学院の試験やバンドの練習などやることがあり、優先順位の中で卒論が一番最後になってしまいました。提出2〜3か月前になって、ようやく彼女とお付き合いすることができたのですが、今度は彼女の家に入り浸るようになってしまって、卒論に手を付けず。でも、今更先生に「何をやったらいいのかわかりません」なんて言えないから、最終的には苦し紛れになんとか書いて提出したところ、「なんだこれは!」と怒られました。尻を叩いてくれる先生ではなかったので、それに甘えてしまいましたね。結局、彼女とは付き合うまでに1年かけて、9か月で別れたんです。大恋愛をしても続くわけではない、と学びました。

ーー今の大学生も色恋がらみの誘惑に悩まされている人が結構多かったです。最後に、万が一「卒論が楽しくない」と思えてしまったり、大恋愛をしてしまった場合に備えて(笑)、卒論の天敵・誘惑にどうしたら勝てるのでしょうか?

私は大学受験を控えているとき、勉強に集中するために大好きなギターをしまいました。でも、ギターを弾かなくなったからといって勉強がはかどったかというと、そうでもなかったです。今思うと、自分を一番勉強に集中させたのは、先生からのポジティブな言葉掛けでした。だから私は、誘惑に勝たなくてもいいんじゃないかなって思います。もちろん、誘惑に負けてしまって締め切りを守らなかったり、何もやらなくなったりしてしまうのはよくないですけどね。たとえば、締め切りまで1週間あって、5日間遊んでしまったから残りの2日間を徹夜で仕上げたとしても、最終的に他の人と同じように提出できたならそれでいいんじゃないかな。

誘惑に勝ったとか負けたとかは、最終的な結果を見て判断すればいいと思います。個人的なアドバイスとしては、早めにSOSを出すことですね。何をやるのかしっかり決めて行動している人には、頑張れとしか言えませんが、テーマが全然決まっていなくて何をしたいのかわからない人は早めに助けを求めることが必要です。あとはやはり内発的動機づけをするために、卒論をやる過程、環境を面白く、楽しくすることです。そのためにも、やはり友達作りは大切だと思いますよ。
(取材・文/塚本みゆき)

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今野 勝幸(こんのかつゆき)先生
静岡理工科大学 総合情報学部 人間情報デザイン学科講師。研究分野は英語学習者の心理的要因と人間の動機付け。教育心理学や社会心理学の知識を習得し、主に英語学習者のモチベーションを研究されている。趣味のギターは研究室で弾くこともあるそう。

▷▷このお話をもっと深く掘り下げたいひとへ今野勝幸先生からのオススメ本!
パオロ・マッツァリーノ 『反社会学講座』. イースト・プレス. 2004

鈴木 理那(すずきりな)
静岡大学教育学部4年。本特集の編集長(※取材当時)をつとめる。

塚本 みゆき(つかもとみゆき)
英和大学2年。本記事の執筆者。

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