せんせいの引き出し〜静岡産業大学 経営学部 山田悟史先生〜
静岡県の大学の先生によるエッセイ《せんせいの引き出し》。今回はスポーツ保育を専門にする静岡産業大学の山田先生に、自身のスポーツコーチング論を綴っていただきました。指導者として必要な能力や知識、子どもたちへの接し方は、実は「お笑い芸人」と通ずる部分がある?! ものごとを様々な局面から捉える面白さが魅力のお話です。
指導者はお笑い芸人?
私は前々から、スポーツ保育の指導者とお笑い芸人は似ていると思っています。例えば、普段とのギャップ。お笑い芸人は普段暗かったり、人見知りの人も多いんだとか。皆さん、笑わせるための方法を学び、それに基づいて舞台ではキャラを演じてるんです。そして、お笑いが「好き」であることは大事だけど、「好き」なだけではやっていけない世界でもあります。
普段「スポーツが上手」な人が指導も上手という訳でもありませんし、スポーツや子どもが「好き」である事は大事だけど、「好き」だけではやっていけません。スポーツ保育では、子どもに楽しく、効果的なスポーツ指導を行うためには、好きであることに加え、教えるための方法を学び、それに基づいて指導者としてのキャラを演じる必要があります。
次に幅広い知識と長期的な視点。お笑い芸人さんのネタを見ていると、社会のあらゆるものにアンテナを張っていることが分かります。芸能ネタや政治ネタなどニュースに取り上げられるようなものから、ショップ店員のマネや何もないところで転んだ人のマネなど日常の些細なことまで本当に多様です。そして長期的な視点がなければ一発屋になってしまうこともあります。スポーツ保育では、楽しくて子どものためになる遊びを展開し、続けていくためには、幅広い教養と長期的な視点が欠かせません。それを欠くと、独りよがりの自分が面白いだけのつまらないお笑い、いや、指導となってしまいます。
そして、会話力と数学的能力。お笑い芸人、とくにツッコミでは相手が何を言っているのか瞬時に理解しなければいけません。漫才では、笑いの要素を計画的に積み上げる必要があるでしょうし、コントではキャラの設定のために、モデル化(特徴を抽出し一般化すること)を行う必要があります。バラエティ番組を見ていると会話力、数学的能力の高い芸人さんだなと思うことがよくあります。
スポーツ保育でも子どもの言いたいことを理解せねばなりませんし、意味を持った遊びとして指導内容は計画されなければいけません。また、これから会話力や数学的能力を身につけていく子どもたちに、レベルの低い会話力、数学力で接することは、子どもの発達を阻害する可能性まで出てきます。
最後に、見せない努力。特に思うのがこれです。舞台に立つまでに必死にネタを集めて書いたり、練習をしている。舞台前の楽屋では緊張のあまり嘔吐しそうになったり、壁に向かってぶつぶつとリハーサルをしたりしていて、楽しい、面白いとはかけ離れた光景です。しかしながら、舞台に出れば、そのことをみじんも感じさせません。
スポーツ保育でも、子どもと遊ぶときはひたすら楽しく遊ばなければいけません。もちろん時には叱ることも必要ですが。でも、そのためには必死に計画を立て、練習をしなければなりません。しかしながら子どもたちにはそういった面を見せてはいけないのです。いかがでしょうか。似てると思いませんか[了]
山田 悟史先生
静岡産業大学 経営学部 准教授。
中京大学大学院 体育学研究科卒。専門分野はスポーツ保育、スポーツコーチング、水泳、バイオメカニクス。