知の地図をつくろう

知りたい、の原泉は日本一深い海に

最深部2,500mと実は日本一深い海駿河湾。その海と未知に包まれた深海の魅力、そこに対する想いについて、沼津港深海水族館館長の石垣さんにお話を伺った。(静岡時代30号/巻頭特集「異界、静岡の扉」)

■世界が羨む海が、実は目の前に広がっている

ーー正直、わたしたちの多くは日常の中で、駿河湾についてあまり意識していないなと思うのですが、石垣さんにとって駿河湾とはどんな場所ですか?

(石垣さん)とにかく日本で一番深く、多様な生物に恵まれた場所というのが何より魅力的です。「日本一深い」はここにしかないですからね。例えば、もし富士山が日本で一番ではなくて二番目に高い山だったら、皆さんの富士山に対する見方も今の様子とはだいぶ違うんじゃないかと思います。私のように海の生物に関わる仕事をしている者からしてみると、駿河湾というのは、その豊富な海洋資源ゆえ世界中の水産関係者が羨むまさに宝の海なんですよ。

例えば近年古代魚のラブカが捕獲され話題になりましたが、駿河湾ではそういった古代生物が多数確認されていることでも有名です。あと沼津深海水族館の2階にあるシーラカンスの展示では南アフリカに協力してもらっているのですが、この水族館をつくるときに、関係する人たちから「駿河湾のどこにできるの?」と聞かれたりするのです。海外と仕事をしていて、「駿河湾」という言葉が普通に出てくるんですよね。それほどに彼らにとっては憧れの地であり、聖域なんです。

深海はまだまだよくわかっていないことが多く、ますます注目が高まってきている分野なので、深海はよく宇宙と比較されたりもしますが、そんな謎に包まれた世界へ続く扉を開くこと、それが私たちのやるべきことだと思っています。見えないからもっと見たい、もっと知りたい、そんな想像力や興味をかき立てられるような場所をいつも目指しています。

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■圧倒的なスケールの「見えない、わからない」が未だ残されている場所

ーーそれほど魅力的な海が目の前にあるのに、静岡県といったら同じ日本一でも「富士山」の方に注目が集まりがちですよね。「沼津深海水族館」というネーミングにもあるように、深海をキーワードに大々的に展開されることの裏側にはどのような想いがあるのでしょうか?

(石垣さん)近くにあるものって普段なんとなく触れているからこそ、その価値を見出しにくいということが駿河湾にも言えると思います。特に海の深さのスケールって、富士山とは違ってなかなか見えないわけですからね。そんな中、この水族館の名前に「深海」という言葉を使うことは大変なプレッシャーでもありました。同じように水族館の名前に「深海」が付く施設は世界でも少なく、うちとイギリス・マンチェスターにある施設の2カ所しかないんです。でもマンチェスターの方は、やはり管理の難しさからか資料的な展示が多く、深海生物を活き活きとした姿で見せることからは遠のいてきてしまっています。

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深海生物を専門に扱うことは、死んでしまう確率が非常に高い生き物を扱うということ。水族館で深海生物を通年で展示しようなんて、赤字まっしぐらな部門に自ら手を付けるようなものですから、普通だったら考えられないことなんです。だけどこの水族館の構想が出て来た頃には、徐々に深海生物がテレビなどでも扱われるようになってきていて、タレントさんたちがブログなどで取り上げてくれていました。それによって注目が集まりやすくなってきているのを感じていたんです。あとはやはり、世界に誇れる駿河湾とそこにある深海の魅力を最大限に引き出して、多くの人々にその面白さを伝えたいという想いが強かったので、徹底して深海生物の展示に取り組もうと決めました。

ーー確かに、「深海」とついているからこそ、どんな生き物がいるのか想像が追いつかない部分が多くて、余計に興味を惹かれます。インパクトもあるので、まちの特徴にもなりますよね。

(石垣さん)そうですね、今では深海をテーマとしたまちづくりという観点からもその拠点としての役割を担っています。もともとここ沼津港では、100年ほど前から食用のための深海漁が行われていました。しかし、アジやサバなどに比べたら全然ポピュラーではないですから、そのほとんどが捨てられてきました。ですが現在この水族館の周辺施設では、深海生物を一年中見て食べて楽しめるということを売りに話題を呼んでいます。ここにしかない利点をどんどん活かすことで訪れる人が増えるのであれば、これは地元の漁師さんたちや、関わるまち全体にとっても良い循環になるんです。

例えば有名な旭山動物園に関して言えば、あの動物園があることで街全体が活き活きとしている。またそういった体験をまちの人々が共有している気持ち良い空気があります。いま私たちも水産関係以外でのおつきあいの幅も広がってきていて、ここ沼津港発の地域活性化の輪が着実に生まれてきているんだなと実感しています(了)

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◉石垣 幸ニ(いしがき こうじ)さん
沼津港深海深海水族館、シーラカンス・ミュージアム館長。静岡県下田市のご出身。2種類いただいた名刺のもう一つの肩書きは「海の手配師」。趣味で潜ってきたことからこの業界に入られ、今では世界中にネットワークをお持ちのすごい方。

◎「沼津港深海水族館」
〒410-0845 静岡県沼津市千本港町83番地
TEL:055-954-0606
HP:www.numazu-deepsea.com


【取材/静岡時代】
◉鈴木 智子(すずき ともこ)
静岡大学大学院1年。静岡時代30号巻頭特集「異界、静岡の扉」の編集長。本記事では取材、執筆も務める。

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▷記事掲載号:2016/04/01発行

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