知の地図をつくろう

土がある生活を創る、陶芸家の土論。

“土”と”火”が出会うことで生まれる一つの陶器。土の潜在能力を引き出す陶芸家はどのような想いで土と向き合っているのでしょうか。「静岡の土でしか作れないものを作りたい」という、陶芸家、小國加奈さんを伺いました。小國さんにとって”土”とは何なのか、その魅力に迫ります。

(静岡時代35号/巻頭特集「静岡の土を舐めたい」)

■実は主役級? 奥深い土の世界。

ーー小國さんの作られる器からはどれも土の暖かみが感じられる、柔らかい印象を受けます。そもそも陶芸において土とはどのような役目をもっているのでしょうか? 小國さんの土へのこだわりも含めて教えてください。

(小國さん)私が普段使う粘土は、お付き合いのある粘土屋さんから、自分の出したい色や手触りに合ったものを選んで仕入れています。例えば粒子の細かい粘土はなめらかな手触りになりますし、程よい重みが出るんですよ。私が今使っている窯でうまく丈夫に焼き締まる土を選ぶことも大事ですし、毎日気を遣わずに使えるタフな器にしたいですね。あとは、器を焼く前に釉薬(ゆうやく)という薬をかけてコーティングをしますが、この釉薬の種類によって、手触りも変わるんですよ。

また、日本の食卓では、他の国よりも器を持って食べるという文化が強く根付いていますよね。「器を触る」という機会が多いからこそ、触り心地や重すぎず軽すぎない重さを大事に作っています。縁の下の力持ちのような、皆さんの生活を引き立てる、毎日使っていても飽きのこない器作りを心がけています。

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■土の「地産地消」の実現が私の理想

ーー器の手触りの土台となる土選びから、繊細な工夫を重ねていらっしゃるんですね。では、出身地である静岡の土を使って陶芸はされていますか?

(小國さん)私もまだ研究途中で100%静岡の土で作る、ということはあまり出来ていないのですが、普段使う粘土にすこし混ぜてみたり試行錯誤はしています。というのも、市販の粘土で陶芸をしていたとき「せっかく清水という地で陶芸をしているんだからこの地で採れた土で作りたい」と思ったんです。静岡で陶芸をする意味を考えるようになったんですよね。

静岡の土を使うきっかけとなったのが、静岡の様々な土を使って器を実験した成果をまとめた『やきもの実験 静岡の土(芳村俊一・宮本森立編)』という本。釉薬を使わずに静岡の土が出してくれる色を活かす陶芸のやり方、静岡の様々な土を使って実験的に焼いているその姿がとても衝撃的で。その本に刺激を受けて以来、私ももらえる土があればとにかくもらって研究しています。

山と海を持つ静岡県の土は、火山灰や海成土が多く含まれています。そのため焼いたとき、含まれる成分が相互作用して早く溶け、形を留めておくことができません。不純物が多い粘土を高温で焼くとぶくぶくと泡立ったり溶ける一方で、純度の高い磁器土などは高温で固く引き締まります。焼いて固まって溶けるまでの温度の幅が土の成分によって違うんですよ。でも不純物があるからこそ釉薬を使わなくても、予想外に混ざった金属の作用で、土が色を出してくれたりするんです。また、同じ釉薬を使っても、土によって焼き終わった時の色も全然違うんですよ。

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ーー土の中の成分がそんなに強く器に影響を与えているなんて驚きです。

(小國さん)陶芸って、土はもちろん、火の力も使うし、水の力も使うでしょう? つまり、自分の力というよりも自然の力を借りて焼き物はできているんです。そう思うと謙虚な気持ちになれるんですよね。静岡の土でできた器に、静岡で採れた野菜やお米をのせて静岡の人がそれを食べる、そんな今は薄れてしまった「土の地産地消」の実現が私の理想ですね。

ーー土の地産地消!確かにせっかく自然豊かな静岡に住んでいるんだから、その魅力を五感で感じたいです!

(小國さん)実現したらすごく贅沢ですよね! 私自身、大学生活を石川県の金沢市という伝統的に焼き物が根付いている街で送ったことで、静岡に陶芸が根付いていないことを実感したんです。

静岡に帰ってきた理由の一つに、静岡の人にもっと身近に気軽に陶器を使って欲しい、という想いもありました。私に限らず静岡県はあまり陶芸が盛んじゃないイメージを持つ人が多いかもしれないけれど、私の工房のある清水区の辺りは古墳時代には窯がいっぱいあって、昔は日本有数の窯業産地だったそうなんですよ。窯があるということはその土地の土を使った陶芸も行われていたということ。つまり、今静岡の土があまり陶芸に向いていないと思われているのも、陶器を焼く今の一般的な温度が静岡の土に適していないからなんです。だから、土に思いやりを持って寄り添って、その土地の土に適した温度で焼けばどんな土でも焼き物になると芳村俊一さんはおっしゃっています。

同じく印象的だったのが、大学で本格的に陶芸を始めた時の先生の「土を使う事の意味を考えなさい」という言葉。土を生かし、土じゃないと作れないものを作りなさいという意味です。手で触れることで、私も土の特性の生かし方や土を使う意味を感じ、見つけていきたいです。

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■奥が深すぎて、一生やってもやり尽くせないかも

ーー土の力でその器の個性を出す、難しそうですが、陶芸だからこその表現方法だなと感じます。

(小國さん)やっぱり土が主役なんですよね。そんな土は、実は何千年~何百万年というものすごく長い年月をかけて作られているんです。もしかすると人間がいつか使い尽くしてしまうかもしれない、限りある資源の一つなんですよ。陶芸家としてその問題に取り組むために、割れて使えなくなってしまった焼き物を粉砕して、もう一度粘土に戻された「リサイクル粘土」を使った器作りもしています。埋め立て処分するしかなかった焼き物を違う形に生まれ変わらせることができるんです。

ーー土は限りある資源。だからこそ土の存在を日常の中で想う時間を持てたらいいですよね。最後に、小國さんにとって土とは何か教えてください。

(小國さん)私にとって土は「生かしてもらっているもの」ですね。自分の職業としても、自分が食べる野菜やお米などすべての食べ物を育む点でも。そんな土を扱う陶芸は、知れば知るほど本当に奥が深い。芸術の表現方法ってたくさんあるけれど、私はこれからも土一本にしぼりたいし、奥が深すぎて一生やってもやり尽くせないかも(笑)。好きが根底にあるから、今、土と触れることが一番楽しいんですよ(了)

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小國 加奈(おぐに かな)さん
陶芸家。普段の器からランプまで、生活に寄り添う多種多様な作品を制作。静岡市内のカフェや料亭などでも小國さんの作る器が多く使われている。静岡市清水区の陶工房「KANa」では、小國さんの作品や器を実際に購入できるほか、陶芸体験もできるそう。

■小國加奈さんの陶工房「KANa」
住所:静岡市清水区有度坂5-16/電話:054-347-7781
毎月1日~15日開店。16日~月末は作陶につき休業。静鉄電車「狐ケ崎駅」より徒歩で約12分。

【取材/静岡時代】
・樫田 那美紀(かしだ なみき)
静岡大学人文社会科学部3年。静岡時代35号巻頭特集「静岡の土を舐めたい」編集長。
・三好 景子(みよし けいこ)
静岡大学教育学部3年。本記事取材、執筆者。

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▷記事掲載号:2014/06/01

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